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片田珠美「精神科女医のたわごと」

元農水次官・長男殺害、「親が始末つける」は危険な発想…無理心中を誘発、親と子は別人格

文=片田珠美/精神科医

 だから、子供が一定の年齢以上になったら、「血がつながっているとはいえ、親と子は別人格。子供の問題をすべて親が解決できるわけではない。親のほうが先に死ぬのだから、子供の面倒を最後まで見るのは所詮無理」という割り切りが親の側に必要なのだが、実際にはそれができない親が少なくない。

 息子を殺害するまで追い詰められた熊沢容疑者の苦悩は、わからないではない。ただ、その根底には、「私物的我が子観」が潜んでいたのではないか。

「私物的我が子観」とは、母子心中の実態を調査した研究から明らかになった傾向である。母親が子供を「私物」とみなし、「一緒に死んだほうがこの子にとって幸せ」「生きていてもこの子は不幸になるだけ」などと思い込んで、母子心中を図る。

 平たくいえば、親が子供を所有物とみなす傾向であり、こうした傾向が父親に認められることもある。これを容認するのが危険なのは、引きこもりの子供の将来を悲観した親が無理心中を図る事件を誘発する恐れがあるからだ。

 これからは「私物的我が子観」を捨てて、社会全体で子供を見守っていくという「社会的我が子観」を育成しなければならない。
(文=片田珠美/精神科医)

参考文献
片田珠美『拡大自殺』角川選書、2017年
高橋重宏『母子心中の実態と家族関係の健康化―保健福祉学的アプローチによる研究』川島書店、1987年

片田珠美/精神科医

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

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