昨年、富山市と仙台市で交番が襲われて拳銃が奪われ、富山では一般市民に犠牲者も出た。
現在、警察庁では交番の奥に入れないような構造に改築するなど対策を進める。拳銃ホルダーも相手側からは抜き取りにくい新型ホルダーの配備が始まり大阪府警も導入中だが、古瀬巡査の装備は旧型だった。とはいえ、新型ホルダーが配布されていれば、飯森容疑者は銃強奪に難儀したため、古瀬巡査は殺されるまで刺された可能性は高い。古瀬巡査は防刃チョッキを着ていたが脇の隙間から刺され、心臓に達していた。まだ予断は許さないとはいえ、第二の事件がなかった今、配備の遅れは幸いだった。
しかし、元神奈川県警刑事の小川泰平氏は「容疑者の行動は不可解ですが、精神障害もあるようでなんとも言えません。刺された巡査には酷ですが、警察官は命を落としても拳銃を守らなくてはならない。その意味でも大きな失態です。交番の常時複数配備は現在28万人いる警察官をもっと増やせば簡単だが、公務員を減らしている現在、難しい。実際、交番も減らす方向にあるのです」と語る。
免れない吹田署長などの処分
大阪府警では昨年8月、富田林署の留置場の接見室から、強制性交未遂容疑で逮捕されていた男が弁護士との接見の終了直後に、壁とアクリルボードの接合部分の緩みを利用して脱走し、捕獲に49日かかるという大失態で富田林署署長が更迭されるなどした。ましてや今回は拳銃所持の逃走撃。石田高久本部長は発生の直後に吹田署前で「なんとかG20サミットの前に解決したい」と異例の屋外会見をした。防犯カメラ映像を早く公開し、飯森容疑者の父親(関西テレビ常務)が「息子では」と名乗るなど解決への展開は速かった。
発生から追う在阪紙記者は「G20サミットの直前だっただけに府警幹部は自力で取り押さえて第二の事件を防げたことに安堵しています。しかし一日だけだったとはいえ重要な拳銃が警察の管理外になったのは事実。吹田署署長などの処分は免れない」と見る。
古瀬巡査は元ラガーマンで俊足だった。とはいえ、欧米などの警察官にはかなり屈強な体躯の持ち主が多いが、日本の警官は平均より華奢な体躯の人も多い。交番のような人数の少ない部署だけでも屈強な男を中心に配備すべきとも思うが、前述の小川氏は「それは無意味。警察官全員が柔道か剣道の初段を取っているが、年齢が上がってくればもみ合いになっても勝てなくなる。無理な話です」と話す。
(写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト)