ITによって蓄積された膨大なビッグデータを統計的に分析する手法が注目されている。一方で、蓄積されたデータには多くの個人情報が含まれているため、プライバシーの観点からビッグデータ利用を懸念する声もある。
「ツイッターのつぶやきから、そのユーザーの人格や価値観、要求を知ることができる」なんて話を聞くと、ビッグデータ利用に反対したくなる人も増えてくるかもしれない。2013年5月25日付の英エコノミスト誌は、次のような驚きの研究成果を伝えている。
●つぶやきから人格や価値観を明らかにできる
従来のマーケティングでは、年齢、性別、既婚・未婚、居住地、収入などをもとに消費行動の分析が行われてきた。しかし、この手法はうまくいかなかったと専門家は考えているようだ。
そこで、IBMのアルマデン研究センターが着目したのが、消費者の深層心理である。その深層心理は、ツイッターのつぶやきに表れると彼らは考えた。つぶやきというデータを解析することで、そのユーザーの深層心理に迫り、人格や価値観、要求を明らかにすることができるという。
同センターが開発した解析ソフトは、コロラド大学の研究成果をベースにしている。同大学の研究成果によれば、特定の単語と心理的特徴には相関が見られる。例えば、「バー」「レストラン」「人混み」といった単語は、外向性を示す。「不愉快」「だるい」「気がめいる」といった単語は、神経症的傾向に関係する。一方、「夏」という単語が同調性に関連したり、「珍しい」という単語が協調性に関係するというから面白い。
こうした研究成果をベースに、同センターは9000万人のユーザーのつぶやきを分析した。その結果、わずか50個のつぶやきから、そのユーザーの人格を推定することができたという。
●ドライバーを監視して自動車保険に利用
自動車保険をめぐるビッグデータ活用も進んでいる。13年8月6日付の米タイム誌によれば、自動車保険業界でも、従来型の保険料算出方法に代わり、ビッグデータを使った方法が導入されるようになってきている。
従来型の自動車保険では、年齢、居住地、事故歴、違反歴などを元にリスクが計算され、保険料が算出されてきた。一方、ビッグデータを使った方法では、自動車に端末を取り付けることでドライバーの運転が記録され、安全な運転かどうかという観点から保険料が算出される。
今のところは、主にアメリカなどでドライバーが任意にこうした新たな自動車保険に加入できるようになっている。安全な運転をすれば5~10%、場合によっては30%以上も保険料が下がるということで、ドライバーはこの新しい保険を歓迎しているようだ。
しかし、今後は端末の取り付けが義務付けられ、危険な運転をしたドライバーに対して保険料の値上げがなされるのではないかという懸念も出てきている。あるいは、端末の取り付けを拒否すれば、一括して危険なドライバーと見なされ、保険料が割高になる可能性も指摘されている。
ビッグデータの活用は、マーケティングや保険など、さまざまな分野に革新をもたらし始めている。そうした革新に伴う弊害についても今後明らかになるにつれて、対策が求められることになりそうだ。
(文=宮島理)