米国経済は今、「財政の崖”Fiscal Cliff”」に直面しようとしている。
米国が債務上限問題に揺れた2011年7月。年間の国債発行額が決められている米国では、発行限度枠ギリギリまで国債を発行したため、その後の政府の資金調達が滞り、財源が不足する事態に陥った。国債の償還資金にも事欠くほどになり、米国債はデフォルト(債務不履行)の危機だと、メディアなどから騒がれた。
結局この債務上限問題は、8月に成立した11年予算管理法で回避できた。しかし一方で、10年間で9170億ドルの財政赤字削減と13年度から21年度末までの9年間で総額1.2兆ドルの一律歳出削減が発動されることになってしまった。そしてこの歳出削減が13年1月からスタートすることになる。「財政の崖」とは、この急激な歳出削減を指し、その名付け親はFRB(米連邦準備制度理事会)のベン・バーナンキ議長だ。
財政の崖は深い。米国議会予算局によれば、財政の崖の高さは6070億ドル(約49兆円)で、GDP比5%に相当する。これだけの歳出予算が13年1月から削減されることになる。
歳出削減の主な内容は、ブッシュ減税が失効となり、クリントン時代の所得税率が復活。また、給与税減税(日本の社会保険料に当たる)が終了する。緊急失業給付も廃止に向かって進み出す。さらに、投資減税も終了し、医療制度改革のための増税がスタート。不動産の売買や賃貸収入についても課税対象になると見られている。こうなると、国民の所得減少は確実で、米国景気が来年から急速に悪化することが確実視されている。
米国議会予算局によれば、政府が「財政の崖」を回避できずに、”崖から転げ落ちる”と、13年の成長率は1.1%に低下し、失業率は13年末には9.2%まで上昇すると推計されている。
しかし、財政の崖から転げ落ちると、これだけ悲惨な状況に陥ると分かっていながら、今の米国政府はそれを回避することが難しい状況にある。なぜなら、米国が大統領選まっただ中にあるためだ。民主党、共和党の両陣営とも、財政の崖問題を大統領選の俎上に乗せることを避けているため、回避策の検討は行われてない。実質的にが検討開始されるのは、11月6日の大統領選・議会選挙が終わってからと見られている。