●景気が上向くほどに格差は拡大する
この間、政府の労働法規の規制緩和の動きも非正規雇用化を後押しした。86年には労働者派遣法が施行され、それまで認められていなかった、ほかの事業者へ労働者を派遣する事業が認められた。当初、派遣対象は専門性の高い業務を中心に狭く限定されていたが、99年の改正で原則自由化。03年改正では製造業への派遣も解禁されて、派遣労働者は一気に増加した。すなわち、派遣労働者を安価で雇用できるようになったのだ。
「失われた20年」ともいわれる長引く不況の中で、国を挙げてグローバル経済下で企業としての生き残りが最優先されるようになる。高コストの終身雇用、年功序列の日本から、安価の非正規雇用に頼るビジネスモデルに変わったのだ。
これは企業にとっては都合のいいビジネスモデルで、景気と雇用の関係でいえば、非正規雇用は景気が良くなれば雇用されるが、悪くなれば切られていくだけ。いくら景気が良くなっても、金は経営者、正社員にまでしか回らない構造になっているのだ。つまり、好景気の時期こそ、大企業の経営者、正社員だけが潤い、格差は進行するというわけだ。
実際に、内閣府の「今週の指標 No.1084 最近の賞与の動向について」(13年12月2日)でも、13年夏のボーナスでは経団連の東証一部上場企業76社の調査では、前年比5.0%増とバブル期以来の増加を示したが、「毎月勤労統計の夏季賞与の事業規模別を見ると、500人以上の大規模事業所では、前年比2.6%増と大きく増加したものの、それより規模の小さい事業所ではマイナスか低い伸びにとどまった」ことを指摘しているほどだ。
13年、アベノミクスでも労働の規制緩和の流れを加速させる動きがあった。医療、雇用、農業などの法律を「岩盤規制」として、その緩和の検討を政府の産業競争力会議や規制改革会議で議論。特区内の基準を満たした事業所について、解雇の要件・手続きを契約条項で明確化して解雇しやすくしたり、休日や深夜労働の規制を緩和する「解雇特区」も議論してきたが、批判が集まり、成長戦略の柱となる「国家戦略特区」の規制緩和概要からは「労働時間法制」と「解雇ルール緩和」が外された経緯がある。
しかし、政府は12月20日、地域を限って大胆な規制緩和などを行う「国家戦略特区」について、具体的な特区の対象地域を決める「国家戦略特区諮問会議」の民間議員に、慶応大学の竹中平蔵教授ら5名を選出した。竹中氏といえば、2000年代の小泉政権下で構造改革を唱え、規制緩和を推進してきた人物だ。竹中氏は労働規制の緩和についても「岩盤規制を崩していく」と述べており、積極的だ。
ますます、簡単に解雇できる環境が整い、企業にとっては理想的な規制緩和が進む。それはつまり、若者の格差、貧困が進みかねないということだ。
(文=編集部)