しかし、この反社とは一体誰を指すのか、その範疇は判然としない。みずほ問題では、反社取り締まりの大本である警察庁や金融機関を監督する金融庁、当事者のみずほ銀行のそれぞれにおいて、反社の定義は明確ではなかった。
まずはっきりしているのは、暴力団及び暴力団員であることだが、それでは暴力団の準構成員は対象に含まれるのだろうか? 例えば、フロント企業と呼ばれる暴力団関係企業、“足を洗った”元暴力団員、総会屋、右翼団体とその構成員、左翼団体とその構成員などはどうだろうか。
●「反社会的勢力」の定義
一体どこまでが反社と認定されるのだろうか?
みずほの問題に端を発し、銀行界では全国銀行協会(全銀協)を中心に、反社に関する情報提供を会員各行に行うため、データベースの構築を進めている。この全銀協の判断が、銀行業界では反社の一つの基準となる。
その基準とは、警察から提供される暴力団情報に加え、以下の情報が含まれる。
(1)新聞報道などから「暴力団員」「組員」として検索・収集された情報。ただし、この範囲は当面「暴力団員」に限定し、「元暴力団員」「準構成員」「総会屋」などは含まない。
(2)反社に関する訴訟案件情報
(3)官報から収集した指定暴力団に関する情報
(4)国土交通省HPから収集した公共事業の指名停止を受けた暴力団関係事業者の情報
(5)都道府県警察本部HPから収集した暴力団員検挙情報、暴力団関係企業情報
(6)都道府県HPから収集した指名停止・排除措置を受けた暴力団関係事業者の情報
(7)都道府県警察本部HPから収集した暴力団排除条例に基づき公表された暴力団への利益供与者などの情報
(8)上記(1)~(5)から収集した暴力団員と一緒に逮捕もしくは起訴された、またはその暴力団員の共犯として判決を受けた者の情報。
●定義に曖昧さや危険も
問題なのは(7)と(8)で、暴力団もしくは暴力団関係者でない場合にも反社として認定される可能性があるということだ。福岡県では、暴力団に対して「仕出し弁当」を販売した弁当屋が暴力団排除条例に違反したとして摘発された例がある。相手が暴力団・暴力団員と知らずに取引を行った場合にも、条例などで摘発されれば反社となってしまうのだ。
金融機関は全銀協の行動憲章で反社との関係遮断を宣言しているほか、警察庁や金融庁との連携などにより、反社勢力排除に努めている。
警察が提供する暴力団情報についても、警察関係者が「リアルタイムで情報が更新されているわけではない。当然、その情報のすべてが正しいとも限らない」と言うように、曖昧な部分がある。新聞報道などについても、誤報の可能性がまったくないとはいえない。さらに、銀行の中には金融犯罪を起こした者や恐喝・暴力事犯などを「不芳属性先(芳しくない取引先)」として、直接反社といえなくても、気を付けたほうがよいと思われる取引先を独自に分類し、反社としているところもある。「その取引先は銀行にとって、取引をしていただかなくてもよい相手」(メガバンク関係者)ということだ。
以上からわかるように、正確ではない情報、明確ではない基準で反社を認定し、銀行取引を停止するのは非常に危険がある。現代の生活においては、銀行口座による決済機能は社会インフラの一部となっている。銀行取引が停止されれば、日常生活に大きな支障を来すのは間違いない。
身に覚えのない情報に基づいて、ある日突然、私たちの口座が閉鎖されることが起きる可能性すらある。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)