(文=黒沼 透@torukuronuma/株式会社アクトゼロ)
4月末、米大統領官邸・ホワイトハウスは、動画共有サイト・YouTube上で1本のバイラル動画【編註:SNS等での拡散を目的としてインターネット配信する動画】を配信しました。「1 is 2 Many PSA」と名付けられたその動画は、公開から1週間で120万回再生され、Facebookでは5万8000回を超えるシェアが行われています(5月8日時点)。PSAとは、Public Service Announcementの略で、日本における「公共広告」のような意味合いです。
・男性スターから、動画を見ている男性たちへのメッセージ
動画URL http://youtu.be/xLdElcv5qqc
その動画は、『ウルフマン』などで知られる俳優ベニチオ・デル・トロの、
「俺たちは問題を抱えている。君の協力が必要だ」
という語りから始まり、次々と大物男性スターが現れます。人気ドラマ『ザ・ホワイトハウス』の俳優デュレ・ヒル、『40歳の童貞男』の俳優スティーブ・カレル、『007』の俳優ダニエル・クレイグ、テレビ司会者セス・マイヤーズと続きます。
「大学のキャンパス、バー、パーティで、そして高校でも『それ』は起きている」
「俺たちの姉妹、娘。俺たちの妻や友人たちに『それ』は起きている」
「それは、性的な暴力。俺たちは、これを止めなければいけない」
We=俺たち男性は皆、女性への暴力の当事者になり得るという可能性を示しつつ、メッセージは続きます。
「俺たちは止めるんだ、聞いてくれ」
「彼女が同意していない、もしくは同意の表明ができないなら、それはレイプだ。暴力なんだ」
「犯罪なんだ。間違っている」
●副大統領、さらにオバマ大統領も
ここで、女性への性暴力問題に長年携わってきた、バイデン副大統領が登場します。
「その状況に遭遇したら、君はかつて教わったように行動に出なければいけない」
「もし遭遇したら、俺は声を上げて止める」
「彼女を非難するんじゃなく、彼女を助けるんだ」
「俺は、その『問題』の一部にはなりたくない」
「俺は、その『解決策』の一部になりたいんだ」
「俺たちは、男性全員が『解決策』の一部となってくれることを望んでいる」
「これは、人間の尊厳や責任にかかわる問題なんだ」
さらにオバマ大統領が登場します。
「性的暴力に終止符を打つ、私たち全員の責任なんだ。それはあなたからスタートする」
「1 is 2 Many = たった一度だけ起きたとしても、『もうたくさん』な出来事なのだから」
性暴力の問題を人ごとにしない、出演陣と視点設定の巧みさ。このバイラル動画のポイントは、ダニエル・クレイグ、ベネチオ・デル・トロなど、男性人気の高い出演陣を使いながら、女性への性暴力という問題を、自分たちの問題として取り上げることに成功している点にあります。「性暴力」をどこか遠くのろくでなしの仕業とするのではなく、あくまで自分たちの男性性の延長線上にその可能性があり、暴力を起こすのも、防ぐのも男性の「選択」によっているということを「We=俺たち」という共通の視点で訴えているのです。
そして特に巧みなのは、その男性の中にバイデン副大統領や、オバマ大統領も例外なく含まれているという演出です。「すべての男性」の問題だというメッセージを、国の代表が行うことによって、特別な意味合いが生まれているのです。
ホワイトハウスのYouTubeアカウントは40万人の登録ユーザーを抱え、すでに4700本を超える動画が配信されています。アメリカでは、政府主導の公共広告でもコンテンツマーケティングの手法が採用され、バイラル動画の活用が当たり前となっているのです。
●株式会社アクトゼロ(http://www.actzero.jp/)
ソーシャルメディアマーケティング、コンテンツマーケティング、YouTube・Vineなどのネット動画プラットフォーム活用で、国内有数のクライアント実績を持つ。