経団連が5月末に発表した大手企業の夏季ボーナス調査(第1回集計)をみると、調査に回答した74社の従業員1人当たり平均ボーナス支給額は、前年同期比で7万1891円増の88万9046円だった。前年比伸び率は8.8%で、調査を開始した1981年以降では過去最高だという。特に円安効果が業績に反映した自動車業界は、100万円超えの108万6032円と突出している。
この調査を素直にとらえれば、デフレ脱却、景気回復も本番だと気分は盛り上がる。しかし、調査対象となったのは、東証一部に上場する従業員500人以上の大企業。
東京・荒川区で金属加工業を経営する従業員20人の中小企業社長は、「確かに仕事量は昨年よりは増えてきたが、それでもリーマン・ショック前の7割もいっていない。ボーナスの増額など無理だ」と、厳しい経営環境を明かす。
日本の企業数は約400万社といわれ、その97%が従業員規模で300人以下の中小企業。その中小企業の大半は50人以下の小規模企業である。そうした中小企業に景気回復の恩恵が及ぶのはいつ頃になるのだろうか。第一生命経済研究所・主席エコノミストの永濱利廣氏は次のように解説する。
「大企業ほどではないが、中小企業も景況感のデータは明確に改善しており、マクロ全体で見れば中小企業の業績も好転している。これまでの経験則では、景気回復が始まってから国民への波及が及ぶまでには3年程度かかっていたが、今回は政府の賃上げ要請もあって1年程度前倒しで進んでいる印象。一方で、労働需給が逼迫してきているので、マクロ全体で見れば、賃上げの動きは今後も持続が期待できそう」
●景気回復の恩恵、広がるまでには時間
アベノミクス効果により、景気判断の材料となる各種経済指標が上向いているのは確かだ。財政出動と金融緩和が奏功し、円安株高で日本経済は息を吹き返し始めたが、ここ数カ月間の為替市場では1ドル101~102円台でこう着状態が続き、株価も横ばい推移が続く。アベノミクス第3の矢となる「成長戦略」が見えてこないのが主因といわれている。
こうした経済状況をカバーするかのように出てきたのが、公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用見直し作業の前倒し議論だ。世界最大規模となる約129兆円の運用資産のうち、現在17%の株式比率を高めようというのが政府の考え。動きが弱い株式市場に巨大な公的資金の買いが入るわけだから、当然、株式市場へのカンフル剤となり株高へと導くことになる。景気回復優先の政策ではあるが、株価が下落すると年金資産が目減りするリスクを伴う。
政府は消費税を15年10月に10%へ増税するのかという判断を今年末にするとしており、なんとか景気回復を演出するために躍起になっているようにもみえるが、果たしてその景気回復を国民全体が実感できるようになる日はくるのだろうか。