●ヤマダ電機は、死亡3カ月後に「因果関係なし」と結論
葬儀翌日、Bさんは店舗事務所を訪れ、遺品や勤務時間に関する会社資料などを受け取った。このときの「何かおかしい」という違和感は、まもなく「過労自殺ではないか」という疑念に育っていった。
葬儀後のやりとりについて、Bさんは次のように話す。
「葬儀から約2カ月後の11月下旬、名刺をいただいていた執行役員の方にメールを送り、『過労自殺ではないか』『勤務時間が異常なので原因を究明してほしい』と要望を伝えました」
「そうしたら、12月上旬にヤマダ電機の労務部から、『調査を進めているので時間をください』という返事が来ました」
「それから3週間くらい過ぎたころ、労務部から『業務との因果関係はありませんでした』というメールがありました」
「すぐにメールを返して、調査で判明したことや因果関係がないとする判断理由を尋ねましたが、返事はなく、その後連絡を断たれてしまいました」
最後に受け取ったメールは12月25日。ヤマダ電機は死亡から3カ月後に責任を否定し、遺族への協力を放棄したことになる。現在まで続く「労災ではない」との考えを、ヤマダ電機はこの時点で示していた。
●ヤマダ電機の裁判での主張
ヤマダ電機の姿勢は裁判でも変わらない。書面によると、会社側の主張の根幹は、(1)労災認定そのものが事実誤認による誤った結論であり、(2)労基署の判断を根拠とした遺族の主張は失当である、というものだ。
だから、裁判所が労基署の判断を覆すことを暗に求めるかのように、裁判所に対して「慎重で丁寧な倫理を切に望む」と述べ、遺族の請求を棄却するよう求めた。
ヤマダ電機の反論のロジックは次の通りだ。裁判書面から筆者がまとめた。
(1)開店準備は新店開設部や商品管理事業部が主導する。オープン作業中は本社の支援チームの指示に従えばよく、一般職とほとんど変わらない。Aさんが精神的圧迫を受けた事実もない。
(2)Aさんが長時間労働を強いられた事実はない。開店準備のスケジュールは長年の蓄積からつくり上げた標準的なものであり、社員に負荷をかけるような過密さもなかった。
(3)柏崎店はフロア長4人のうちAさんを含めた3人が新任だったが、柏崎店には店長ほか開店作業経験者もおり、Aさんと親しい社員も多数存在した。Aさんに負荷がかかるようなことはなかった。
(4)労基署が認めた残業時間はまったく事実ではない。管理職は9月15日以降でも午後10~11時ごろには退社していた。
(5)Aさんには戸惑っていたり悩んでいる様子もまったく見られず、死亡直前まで変わったことはなかった。Aさんが心身の健康を損ねていたようだと認識できた社員は皆無だった。
(6)遺族の主張は、労基署が労災認定した業務の負荷、長時間労働、精神障害の発症の3つを前提としているが、上記のとおりいずれも事実と異なる。
(7)遺族が主張の根拠としている労基署の判断は、開店作業の実態を十分に理解しておらず、また、社員への事情聴取に不足と偏りがあり、その結果、間違った結論に達した。
(8)よって会社は、裁判所に対し、慎重かつ丁寧な審理を希望する。
ヤマダ電機は、これらの内容を準備書面にまとめて、今年4月25日付けで裁判所に提出。前橋地裁高崎支部によると、8月20日現在、会社側の新しい主張は出ていない。
(文=佐藤裕一/回答する記者団)
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