参考人失神、実況見分せず、調書を“作文” 【美濃加茂市長収賄疑惑】でまたも当局が暴走
ところが、実際にガスト美濃加茂店に行ってみると、市長らが座っていた席はドリンクバーの隣で、距離にしてほんの3メートルほど。しかも、店内には衝立もなく、座ったまますべての座席の人の顔がわかるほど、見通しもよい。Tさんに知られたくないという業者が、こっそり賄賂を渡す場所として、こういう場を利用するのは、実に奇異な印象をまぬがれない。
村木さんが巻き込まれた大阪地検特捜部による郵便不正事件の捜査でも、似たようなことがあった。検察側は、係長が偽造した証明書を村木さん(事件当時は厚労省の課長)が自称障害者団体の代表者に自席で渡したと主張した。村木さんと机を挟んで向き合い、「表彰状を受け取るように」して渡されたという供述もあった。しかし、当時の村木さんの机の前には衝立があり、その向こうにはスチール製キャビネットが置いてあって、とても供述通りの状況は再現できなかった。検察は、厚労省の中の実況見分すら行わず、「偽造証明書の受け渡し」という“犯行現場”の客観的状況を確かめようともしなかったため、問題に気づかなかったようだ。
検察は客観的状況を確かめるより、関係者に村木さんを事件に巻き込む供述をするよう迫り、彼らの記憶とは異なる調書をせっせと作っていた。このように、客観的な状況を無視して、取調室の中で調書作りに励む捜査のやり方が、冤罪を作る一因だった。
そうした捜査について、検察は反省したはずではなかったのか。
ところが、藤井市長の事件でも、検察側は現場の実況見分は置き去りにしたまま、ストーリーに沿った調書作りに精を出した。会食に立ち会ったTさんが何度も呼ばれて事情聴取を受けた。警察では、捜査側の筋書きを認めさせようとTさんを責め立て、体調不良で失神するまで追及している。検察でも、現金授受は目撃していないと述べると、検察官は調書の中に、「仮に、お金を渡しているとするなら、私がトイレや電話などで席を外した際に渡しているのではないかと思います」という一文を潜り込ませて署名させたうえ、この調書でTさんが中座を認めたかのように主張。冒頭陳述でも、Tさんが席を外したことが確定的事実であるかのように書かれている。なお、Tさんは私(江川)の取材やネットメディアなどで、「席は外していないはずだ」と繰り返し述べている。
裁判では、今後、業者やTさんらの証人尋問が行われる予定だ。業者は贈賄の起訴事実を認めているが、その供述が、どのような捜査を経てなされたのかについても、裁判の中で十分問いただされることを期待したい。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)