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江川紹子の「事件ウオッチ」第16回

オウム裁判法廷で奪還、襲撃、殺傷事案が起こる?誇大妄想で被告の権利を侵害する検察

文=江川紹子/ジャーナリスト

「パーテーション(衝立)によって私の姿を傍聴席から見えなくさせられてしまうのは、私の心情の安定のためになりません。パーテーションによって私の姿を隠されてしまうことは、私にとっては人権侵害であり、とても心外なことです」

 それなのに、検察はなぜ遮蔽措置にこだわるのか。今回の高橋被告の裁判に関する検察側の書面には、次のように書かれている。

「(多数の傍聴人が見守る中で出廷すると)再び社会に戻りたいという気持ちから心情が不安定となり、自暴自棄となって第三者を巻き添えに生命を賭して逃走を図るなど、裁判員、裁判官その他の裁判所職員、弁護人、検察官、さらには一般市民である多数の傍聴人等に対する殺傷事案を引き起こすことになりかねない」

●公開裁判の保障や国民の知る権利が侵害される

 正気だろうか?

 これまでの裁判では、死刑囚が証人出廷する時には、証言台のすぐ斜め後ろに刑務官が2人、妙な動きをすればすぐに取り押さえられる位置で証人を監視しているほか、その後ろに5人ほどの刑務官が控えている。当然ながら、死刑囚は丸腰で武器などは持っていない。いったい、どのようにして「多数の傍聴人等に対する殺傷事案」を起こすというのだろう。

 検察官はさらに、これがオウム事件最後の裁判であることから、信者らによる「奪還」の「危険性は高まっている」とか、右翼が法廷に押しかけて証人を「襲撃」するなどして、傍聴人や証人らが「犠牲となる殺傷事案等を引き起こすことにもなりかねない」などとも述べている。

 これもまた、妄想か幻想の世界というしかない。

 傍聴人は、裁判所の庁舎入り口で空港のゲートに入る時と同じ荷物検査と金属探知機による検査を受けているほか、裁判が行われる法廷に入る前に、荷物を預けさせられ、金属探知機による身体検査、と警備員が直接体に触れるボディチェック、さらには財布の中身まで全部チェックされる。開廷中は裁判所の警備員が傍聴人を見張っていて、不規則発言や不審な挙動をする者には、すぐに対応する。そのほか、死刑囚が証言する時には、制服の警察官も法廷内で警備しているほか、裁判所の庁舎のあちこちに私服警察官が待機している。

 これだけの警備を突破して、どのような「殺傷事案」を起こすというのだろうか?

 万が一、そのような特殊な行為が実行可能であれば、裁判所で使われている、普通のオフィスで使われているようなパーティションで、その襲撃を防げるとは思えないのだが……。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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