「報道に対して『公立中性ではない』と逐一クレームをつけたり、昨年の参議院選挙直前に『NEWS 23』(TBS)の報道をめぐり自民党が幹部の出演・取材拒否を表明したりするようになると、テレビ局は政策に関する報道にはあまり踏み込まず、各党の主張を並べる『機械的な公正中立』を心がけるようになる。選挙公示後のニュース報道にみられる『各政党一律に30秒ずつ』というような報道だ。公示後はこうした“わりきり報道”も急増しているが、これでは有権者が争点を理解できない。アベノミクスへの評価、消費増税の影響、原発再稼働、TPP、国防などテーマごとの問題を、実情や諸外国の例、識者の声などを元に特集しようとしても、『偏向』だとしてクレームをつけられかねない。そうなるとテレビ局は自分で調査報道するよりも、横ならびの“わりきり報道”という無難な道を選ぶ。結果として有権者には大事な問題点が伝えられないことになる」
また、今回の『朝生』出演者をめぐるテレビ朝日の対応について、水島氏は『権力側の思惑に乗って萎縮した』と次のような見方を示す。
「テレビ朝日が『朝生』で民間識者出席をキャンセルしたのは過剰に反応したケースだが、自民党の要望書に1993年の同局の総選挙報道が国会証人喚問に発展した『椿問題』を示唆する言及があるように、同党の狙いは同局にある。日頃から争点や政策の報道に熱心な同局の番組『報道ステーション』などを牽制することが狙いだろう。そして狙われたテレビ局が権力側の思惑に乗って萎縮した。テレビ報道の役割は、権力のチェックだ。特に選挙の時期こそ、さまざまな政策のチェックを多角的に行うという本来の役目を果たしてほしい」
今回の自民党の要望書がメディア報道に委縮をもたらし、有権者が多角的な情報を入手する機会を損なわせるとしたら、同党の行為は批判を免れ得ないものといえ、今後大きな議論に発展する可能性もあるだろう。
(文=編集部、協力=水島宏明/法政大学社会学部教授)