自民党がNHK及び在京民放テレビ局に対し、衆議院解散前日の11月20日付で「選挙報道の公平中立」などを求める要望書「選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い」(同党筆頭副幹事長・萩生田光一氏および報道局長・福井照氏名)を渡していたことが判明し、波紋を呼んでいる。その内容は「出演者の発言回数や時間」「ゲスト出演者の選定」「テーマ選び」「街頭インタビューや資料映像の使い方」など詳細にわたる「異例のもの」(テレビ局関係者)で、編集権への介入に該当する懸念も指摘されている。
さらに同文書には「過去においては、具体名は差し控えますが、あるテレビ局が政権交代実現を画策して偏向報道を行い、それを事実として認めて誇り、大きな社会問題となった事例も現実にあったところです」との記述があるが、これは1993年のテレビ朝日の総選挙報道が国会証人喚問に発展した「椿問題」を指しているとみられており、報道現場の委縮につながりかねないとの批判も上がっている。
この問題をうけ、同月28日には日本民間放送労働組合連合会(赤塚オホロ委員長)は、「政権政党が、報道番組の具体的な表現手法にまで立ち入って事細かに要請することは前代未聞であり、許し難い蛮行と言わざるを得ない」として抗議声明を発表。このほかにも、政権与党が総務省の許認可権の下にあるテレビ局各局に対してこうした要望を行うのは、言論の自由を脅かす行為であるとの批判も数多くの識者からなされている。
実際に今回の要望が、早くもテレビ局の番組制作に影響を与えている。当初は各党議員と政治家以外のパネリスト数人が討論するという構成であった討論番組『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系/11月29日未明放送)が、放送日直前に議員のみの出演に変更されていたことが明らかとなった。出演予定者だった評論家の荻上チキ氏のTwitterによれば、放送日2日前の27日に番組スタッフから電話があり、「ゲストの質問によっては中立・公平性を担保できなくなるかもしれない」との理由で議員のみの出演に変えると伝えられたという。
「番組スタッフに『誰かが何か言ってきたりしたんですか?』と確認しましたが、あくまで局の方針と番組制作側の方針が一致しなかったため、とのことでした。番組スタッフも戸惑っていた模様です」(荻上氏のTwitterより)
●民放ニュース番組で出演者に発言自粛要求
さらに要望の影響は『朝生』にとどまらず、他の番組にも及び問題が発生していたことが明らかとなった。
11月末、在京キー局の夜のニュース番組収録現場へコメンテーターとして出演依頼を受けた著名な有識者A氏。同番組では衆議院総選挙(12月2日公示・14日投開票)を取り上げる予定だったが、A氏は番組スタッフから「特定の政党を応援したり、批判したりするような発言を控えてほしい」という、発言を委縮させられかねない要請を受けた。A氏は「いや、民主主義において、それぞれに賛否の意見があるのは当然なのですから、こんな要請をされたらまともに政策の評価をできないでしょう」と拒否した。