しかし、それでもスタッフから要請が続けられたため、A氏は「まともに発言ができないなら、私は出演を取りやめさせていただきます」と出演を断り、収録前のスタジオを後にして一旦は帰ってしまった。すると慌てたスタッフは上層部と協議し、「発言の自由を確保するから」とA氏に謝罪と説得が行われ、A氏は収録現場に戻り出演していた。
A氏はこの件について「国民の『知る権利』が最も守られるべき選挙において、報道番組が出演者に発言を自粛させるような要求をしてくることは大問題ではないか」と語った。
報道が社会に与える影響について詳しい株式会社ブランド・コア代表取締役の福留憲治氏は、次のように懸念を示す。
「報道機関が積極的な報道を自粛し、各政党の主張が一律にのみ報道されると、主張の違いや特徴がわかりにくくなります。その結果、有権者の選挙への関心が失われ、投票率の低下や相対的に組織票の影響が大きくなる懸念があります」
「与党の要求により選挙報道が自粛すると、組織票の重みが増し日本の利権構造は強化されてしまいます。例えば電力業界からの多大な応援の力で議員になった方では、原子力発電のコストについて公正な議論はできませんし、脱原発などできるわけがありません。農業、医療、エネルギーなど各分野でも同様の事態が起きてしまいます」
今回の自民党の要望書がメディア報道に委縮をもたらし、有権者が多角的な情報を入手する機会を損なわせるとしたら、同党の行為は批判を免れ得ないといえよう。テレビ各局には、委縮をせず有権者に十分かつ多角的な情報を提供する姿勢が求められている。また、有権者は、積極的に情報を入手し投票を行うことが重要といえよう。
(文=編集部、取材協力=福留憲治/株式会社ブランド・コア代表取締役)