丹羽前中国大使の処遇で内輪モメする伊藤忠と、高笑いの外務省
「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/9月29日号)
騒ぎは、若いころの火遊びぐらいにしてくれればいいものをと苦々しく思っている人も、経済界中心に少なくないはず。本人は愛国者だと思っているかもしれないが、経済も外交もまったく音痴。今後を含めてわが国の経済的損失は多大だし、多くの国民にいらざる不安をかき立て、反中国意識を煽り立てた責任は大きい。とんだ愛国者というしかない。
そんな混乱の中、急逝した西宮伸一氏に代わり、木寺昌人官房副長官補が新中国大使に決まった。木寺氏は正式に任命されると、外務省の内規に従い40日以内に着任することになっており、帰国を延期していた丹羽宇一郎前大使は引き継ぎを済ますと、10年6月以来の任務を離れ日本に帰ることになる。
そんな折、丹羽氏の処遇をどうするかに関しての情報が漏れ伝わってきた。
実は丹羽氏は東京都が尖閣諸島を購入する意向を表明すると、英紙「フィンナンシャルタイムズ」のインタビューに応え、「実行されれば日中関係に重大な危機をもたらすことになる」と政府与党関係者として最初に反対を明言、このため自民党から解任を求められるなど、強い反発を買った。もともと、丹羽氏は「反中国的な言動は行わない」と常々語っており、タカ派政治家たちから、いつかは足を引っ張ってやろうと狙われていたといわれる。そうでなくと複雑微妙な日中関係だけに、素人外交官には荷が重いというのは、任命当時からあった評でもある。
●丹羽前大使の懸念が的中
そうであるにしても、日中関係は、野田内閣が軽率にも石原知事の挑発に乗って尖閣諸島国有化を決めた結果、丹羽氏の予想通り大混乱に陥った。領土問題というのはいかに日本側に理があろうとも、本来もっと冷静慎重に対処すべき問題である。しかし一票でも支持が欲しい野田佳彦首相は、石原都知事に名をなさしめてはならじと、ドジョウの鈍重さとは裏腹に国有化に身を翻して飛びついたように見える。
当然その前段で、同じ民主党政権下において三顧の礼で駐中国大使に任じたはずの丹羽氏といえども、秋の定例人事の名目で事実上更迭することになんら躊躇はなかったはずである。そのことはさほどの時間を置かずに、経団連関係者や丹羽氏の古巣である伊藤忠商事のトップにも伝えられた模様である。
伊藤忠の有力関係会社の幹部によると、夏前には岡藤正広社長らトップ陣の間で、社長・会長を歴任、大使に任命される直前まで取締役相談役だった実力派OBの帰国後の処遇について、かなり激しい論議が交わされたという。
●ビジネスにはマイナスだった伊藤忠
商社担当記者によれば、「伊藤忠は戦前からのしがらみが強く残る三菱商事や三井物産と違って、身軽に動け、そのため中国における商権は大手総合商社中トップだ」という。そうした実績があることから、旧通産省出身の民主党・岡田克也現副総理が目をつけ、「官僚主導の打破」を名目に丹羽氏を大使に招いたのだが、伊藤忠のほうはこの間、「結果的にはライバルからさんざん中傷され、商売としては逆に動きづらかった」ともいわれている。