一定以上の大きさの金属は金属検出器、X線検査機などで必ず検出されるので、金属類の異物が入ったまま販売されることはほぼありません。ゴキブリやハエなどの虫に関しても、工場内で防虫対策が的確に行われていれば十分に防げます。しかし、毛髪や工場で使用しているビニール類の混入といった人的要因は、どれだけ厳しい管理を行っていても1ppm程度の割合で発生してしまいます。
つまり、異臭や腐敗、金属検出器で検出できる大きさの金属などに関するトラブルはある程度防ぐことができるのですが、「髪の毛が入っていた」などの人的要因のクレームを完全に防ぐことは難しいものです。
まずは異物と食品の保管
そこで、食品を食べている時に異物を発見した場合の対応について考えてみましょう。
例えば、サンドイッチを食べていたら口の中に違和感があり、出してみると針金状の金属片の異物が入っていたとします。この場合、対応の手順は以下のようになります。
1.異物と食品を保管する
2.包装材料やラベルも保管する
3.購入した店舗や製造元に連絡をする
4.異物等を引き渡し、原因の説明を受ける
5.経費の精算を行う
6.社会的説明を求める
では、順番に考えていきましょう。
1.異物と食品を保管する
まず、口の中に入っているものをすべて吐き出して保管します。食べかすに紛れてなにか重要なものが含まれている可能性もあるので、異物を洗ったりしないでそのままの状態で保管しておきましょう。
異物については、スマートフォンやデジタルカメラで撮影して写真を残しておきましょう。写真を撮る時は白や黒の紙を背景にすると異物がよく写る場合があります。筆者は仕事で異物を撮る機会が多いので、常に白と黒の紙を手帳に挟んでいます。
サンドイッチは、まだ手をつけていない部分も保管します。残りの部分にも異物が入っているかもしれません。もちろん、それも写真を撮っておきましょう。
2.包装材料やラベルも保管する
包み紙やラベルなども捨てずにとっておきます。レシートなどの購入した証拠があれば、当然それも保管しておきましょう。
3.購入した店舗や製造元に連絡をする
販売、製造している業者に連絡をします。電話などをする前には、簡単に以下のようなメモを作成しておくとスムーズに状況が伝えられるでしょう。
・ 購入日、購入場所
・ 製造日、賞味期限
・ どんなものが入っていたか
・ いつ引き取りにきてほしいか
・ いつどこに連絡をしたか
連絡をする際、食品に異物が入っていたこと、口に入った場合はその旨を明確に伝えることが重要です。口を切ったりしてけがをした場合なども、正確に伝えましょう。
電話でのやり取りは「言った」「言わない」と後でトラブルの原因になることもあるので、可能であれば録音することをおすすめします。録音できない場合は、電話の内容をメモに残しておきましょう。
4.異物等を引き渡し、原因の説明を受ける
こちらが連絡をした後、先方は可能な限り早く引き取りに来て直接確認するのが常識的な対応です。もし「郵送してください」などと間接的な対応をされた場合、その姿勢も問題にしていいと思います。
異物等を業者に引き渡す時は、必ず受取書をもらいましょう。異物をはじめ食べかけの食品、ラベル、包装材料など、渡したものの明細を受取書に記入してもらいます。受取書がない場合は、白紙に明細のほか会社名、役職、名前を記入してもらいます。
また、混入していた異物は消費者に戻してもらうのが基本です。「破壊検査が必要になる」などと言われた時は、その旨も受取書に記入してもらいましょう。
ただのクレーマーにならないために
5.経費の精算を行う
異物混入を連絡するために発生した経費は実費を請求します。中には「クレーム1件で5万円」などとうそぶいている人もいますが、基本的に領収書の発生する実費のみ請求することができます。
食品の代金はもちろん、電話代や交通費、けがをした場合は治療費と慰謝料を求めることができます。けががない場合は、代金と電話代など以外は基本的に請求できないということです。今回の例でいえば、クレームとは食品に異物が入っていた事実を伝え、再発を防止してもらうための行為です。そう考えると、実費以外に菓子折りなど出るわけがないのは当然といえるでしょう。
6.社会的説明を求める
その後、先方から報告があると思いますが、「異物が混入した原因は不明」というケースが多いでしょう。しかし、そうであっても、異物が混入した経緯と、なぜ事前に発見することができなかったのかなど、製造元に対して説明を求めます。具体的には、以下のようなものです。
・なぜ異物が混入したのか
・金属片の残りはどうなったのか
・同じ製造日のほかの商品はどうだったのか
・その商品のほかの消費者にはどう告知したのか
・行政機関にどう報告して、結果はどうだったのか
・社会的にどのように告知したのか
これらの説明を求めるのは、あくまで社会的責任と再発防止の観点からであり、そこで経費の実費以外のお金や物品を要求しては、単なるクレーマーになってしまいます。クレームというのは、個人的な感情や不正な要求から発生するものではなく、企業により良い製品をつくってほしいという思いから生まれるものです。
異物混入を完全にゼロにするのは難しいですが、そういった思考に立った正しいクレームを伝えることで、消費者と生産者の良好な関係が築けるのではないかと思います。
(文=河岸宏和/食品安全教育研究所代表)