マンション建設が制限されたことで、江東区の人口予測は下方修正された。しかし、条例が失効した後、江東区内のマンション建設は再び活性化する。当然ながら、人口も増え続けた。
現在、江東区はマンション建設の抑制はせず、インフラ整備をスピードアップさせて対応している。
多子高齢化に悩む
人口増加で江東区を悩ませるのは、インフラ整備の遅れだけではない。江東区が推計している24年の年齢区分別比率のデータを見ると、区全体の人口が増加しているにもかかわらず、65歳以上の高齢者の割合は微増している。
「特に75歳以上の後期高齢者の問題は深刻です。人口推計では後期高齢者は29年まで増え続けます。人口比率で見ると、29年には75歳以上の高齢者が人口全体の11.8%に達するという推計が出ていますから、江東区としては今から早急に対策を講じなければならないのです」(江東区企画課)
従来、人口ピラミッドは子供の層が厚く、上に行くに従って細くなるのが理想とされる。人口が増加している自治体ならば、理想に近いピラミッド形になる。ところが、江東区の人口ピラミッドは今後もいびつな形のまま推移する。いびつな人口ピラミッドを形成した一因は、先にも触れた転入者による人口増加だ。
子供が増えても高齢者も同じ勢いで増える江東区の現象は、一部の区議会議員から「多子高齢化」と形容される。一見すると、多子高齢化に問題はなさそうだが、そうではない。
子供の数が増加すれば、それに見合った数の保育園や小中学校を整備しなければならない。他方で高齢化が進めば、高齢者を対象にした施設を建設しなければならない。江東区は、これら両者を同時にこなさなければならない板挟みに直面している。
江東区15年度予算を見てみると、その内訳は福祉が45.7%、教育が15.0%なっており、合わせて6割超を占める。多子高齢化のために福祉や教育に予算を割かなければならず、どうしても防災対策や道路整備、地域振興、美化・緑化などの予算が手薄になってしまう。
江東区は20年の東京オリンピックのメイン会場となるために、それらの準備にも予算を割かなければならない。さらに、築地市場の移転予定地となっている豊洲新市場の整備も急務とされている。このように、江東区には行政課題が山積している。
日本全体を覆っている人口減少という苦境とは真逆の状態にある江東区は、地方消滅とは無縁だ。しかし、どこの自治体も経験したことがない多子高齢化という奇妙で新しい社会問題に直面し、必ずしもバラ色の行政運営ではないようだ。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)