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江川紹子の「事件ウオッチ」第25回

今も心は信者のままーー【オウム高橋被告裁判】が露呈した、カルト問題の根深さと罪深さ

文=江川紹子/ジャーナリスト

 最初は、手配写真を見るたびに緊張したが、警察官に声をかけられることもなく、「写真は似ていないから大丈夫だ」と思うようになった。逃走中、新たにオウムの本を購入し、チベット密教関係の本なども買い求めたが、生活に追われて「修行」はあまり進まなかったらしい。

 逮捕時、彼は458万円の現金を持っていた。すべて、逃走中に貯えたものだという。だが、被害者・遺族への賠償を払っていない。その理由を聞かれた彼は、弁護人から「もうちょっと自分を振り返って、考えてから決めたらいい」と助言されたためだと釈明した。

“先送り”され続ける謝罪

 逃走犯の中でも、自ら出頭した平田信被告は、特に假谷事件に関わったことを悔い、遺族に対しても繰り返し謝罪した。有り金は賠償として差し出し、刑務所での服役を終えた後は働いて賠償を続ける約束をしている。そんな平田とは対照的に、高橋は事件に対する反省や後悔を述べない。謝罪もしない。この点を聞かれても、「よく考える」と言うだけだ。

「事件は(オウムが言っていた)救済なのか」

 そう問われた彼は、假谷事件については「やるべきじゃなかった」と述べたが、VX殺人や地下鉄サリンなど他事件については「分からない」と口をつぐんだ。假谷事件では、被害者の体を持って車に押し込む実行役であり、遺体の焼却にも直接関わったため、少しは実感があるのかもしれない。それでも、謝罪はしなかった。

 被害者参加制度を利用して裁判に参加した、假谷実さん(假谷事件被害者の長男)は、「謝罪についてはよく考えてから、ということだが、私どもはどれくらい待ったらよろしいんですか」と問うた。高橋被告の答えはこうだった。

「どれくらいっていうのは言えない。一生自分について回ることですので、一生考え続ける」

 事件からすでに20年。逮捕されてから3年近く経つ。考える時間はたっぷりあった。オウム信者が言う「考える」は、追及をかわしたり、事態を先送りしたりする方便に過ぎないことがしばしば。高橋被告の場合はどうだろうか……。

 地下鉄サリン事件遺族の高橋シズヱさんが、「人生で後悔していること」を尋ねた時の答えから、彼の今の状態は伺える。彼は、「前は後悔だらけだったような気がするんですが、いろいろ考えているうちに、(自分を)許せるようになった」と述べ、後悔するのは「怒りを持ったこと」「人が困っているのを助けてあげられなかったこと」など、事件とはまったく関係ないことばかりを上げた。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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