この「親の責任」ですが、一応「監督義務を怠らなかった」時は責任を免れることもできるのですが、未成年者も責任を負わない、親も責任を負わないといったように、被害者にとって酷な結果にならないよう、「被害者の救済」という政策的な観点もあり、これまでの裁判例ではほぼ無条件に「親の責任」を認め、賠償責任を負わせてきたようです。
しかし今回、最高裁は「通常のしつけ」をしていたのであれば、「普通に考えれば危険ではない行為」による損害について、すぐに「親の責任」を負わせるのではなく、より具体的に「普通は危険じゃないけど、もしこうやったら危険になる行為」まで予測していた場合を除き責任を負わない、と線引きをしたわけです。
●「一般的な考え」に裁判官の感覚が近づく
このように、今まであまりにも範囲が広すぎた「親の責任」を限定したという意味で、今回の最高裁判例は画期的です。
ついでにいえば、最高裁が二審の判断をひっくり返し、「もう一度、しっかりと審理してくるように」という意味の「(二審判決の)破棄差戻し」ではなく、「自分のところで判断します」という意味の「破棄自判」を行うのも珍しいことです。
一般的な考え方からすれば、「小学校の放課後に自分の子供が何をやっているかについてまで責任を追えない」というのが常識かもしれません。
これまで、「被害者の救済」という観点もあり、子供を持つ親に厳しい判断を下してきた裁判所ですが、このご時世「一般的な考え」に裁判官の感覚が近づいてきた一つの例ともいえるのではないでしょうか。
なお、裁判長の山浦善樹判事ですが、長野出身の方で長く弁護士としてご活躍され、その後、最高裁判事に任官された方です。弁護士会の行事などでお話を伺ったことがありますが、お話の中で人を笑わせることも好きな気さくな方です。
(文=山岸純/弁護士法人AVANCE LEGAL GROUPパートナー弁護士)
●弁護士法人AVANCE LEGAL GROUP
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