逆に貯蓄が少ない人、まったくない人は、収支がマイナスになりません。貯蓄がなければ、収入(年金額)の範囲内で生活するしかありません。「ない袖は振れない」からで、収支が均衡している人ほど、余裕がない生活を送っていると考えられます。高齢者の場合、統計データで収支がマイナスとなるのは悪いことではありません。
ただ、人が生活していく以上、最低限必要な支出はあります。それよりも年金額が少ない場合は、どうしても収支がマイナスになってしまいます。貯蓄がなかったとしてもマイナスとなる、本当の「不足額」です。夫婦とも国民年金だけであれば、満額でも月額13万円程度です。夫婦での最低限の生活費を18万円とすると、毎月5万円の赤字となり、30年で1,800万円の貯蓄が必要になります。
世間並みの老後を送るために必要な貯蓄額
「ほどほどの老後を送るには、いくら貯蓄があればいいんだ?」
という声が聞こえてきそうです。では、“ほどほど”に年金をもらう人が、“ほどほど”の生活を送るために、いくら必要かを考えてみましょう。先ほどお話ししたように、支出(=生活レベル)は、貯蓄額によって決まります。ということは、実際の貯蓄額を見ればよいのです。
総務省「家計調査報告(2018年)」によると、高齢者世帯(世帯主が60歳以上で2人以上の世帯)の貯蓄残高の平均は2,284万円となっています。ただ、平均額は一部の富裕層のために高めに出てしまう傾向があります。全体の真ん中に当たる人の金額である中央値では1,515万円です。
“ほどほど”の生活を「平均」とすると約2,300万円、「高くもなく、低くもなく」と考えると約1,500万円となります。このぐらいの貯蓄がある人の生活が、世間一般の平均的な状況だと考えられます。これより多ければ余裕が大きく、少なければ余裕が小さい生活となります。
「老後に貯蓄はいくら必要か?」という質問はよく受けますが、最低限の生活費さえ確保できれば、あとは決まった「必要額」はありません。貯蓄が多ければ、それだけ余裕のある生活が送れるわけで、そのためにも若いうちからの資産形成が重要になります。
(文=村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー)