住む人に対する凶器からシェルターに変化する
このZEHなら、高断熱化によって住まいの中の温度差が小さくなり、ヒートショックのリスクが低減されます。住む人に危害を加える凶器から、住む人を守ってくれるシェルターに変わるのです。
高断熱ということは高気密にも通じますから、外部から花粉症やぜんそくなどのアレルギー原因物質、またインフルエンザなどのウイルスの侵入を防いでくれます。さらに、壁などと室内の温度差が小さくなって結露を抑制、カビやダニなどの発生が減少し、壁や柱などの腐朽を防ぎ、住まいの長寿命化にも貢献するといわれています。
住む人の住まいや入浴に対する「意識改革」も不可欠
こうした住まいの「性能向上」とともに、住む人の住まいや入浴に対する「意識改革」が欠かせません。自動車の安全性能が向上しても、利用する人の意識が低いと、無謀運転や飲酒運転をしたり、シートベルトを装着しないといった問題が発生します。
入浴についても同様。お湯の温度は自動車でいえばスピード。図表3にもあるように、消費者庁では41度以下、10分以内の入浴を勧めています。また、飲酒や食事の直後の入浴を止めるようにアドバイスもしています。さらに、浴槽から急に立ち上がるのは急発進と同じで、やはり事故のもとと指摘しています。
自動車にできたことが住宅にできないはずはない
住宅内の温度差解消などの「性能向上」に、住む人の入浴に関する「意識改革」が加われば万全です。交通事故が急速に減少したように、住宅内での溺死も10年程度で半減できるかもしれません。自動車にできたことが住宅にできないはずはありません。
すでに高齢者がいる家庭も、やがて住む人が高齢者となる家庭も、「性能向上」と「意識改革」を進めていただきたいものです。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)
●山下和之(やました・かずゆき)
住宅ジャーナリスト。各種新聞・雑誌、ポータルサイトなどの取材・原稿制作のほか、単行本執筆、各種セミナー講師、メディア出演など多方面に活動。「山下和之のよい家選び」も好評。主な著書に『よくわかる不動産業界』(日本実業出版社)、『マイホーム購入 トクする資金プランと税金対策2016』(学研プラス)など。