人間の金銭感覚は簡単に狂わされる!
金額を錯覚することによって、余計な出費をしてしまう事例もある。バーゲン会場で見かけるのが「アンカリング効果」だ。もともとの値段が5万円のスーツに「50%オフ」という値札がつけられていたとたん、「これは安い!」と思ってしまう。
もし、隣に定価2万5000円のスーツが並んでいたとしても、つい50%オフのほうを選ぶだろう。これは、「2万5000円」という価格が安いかどうかという判断ではなく、最初の5万円がアンカー(錨)になってしまい、それより値下げされているだけで「安い!」と感じてしまうからだ。
同じような錯覚は、最初に認識した金額によっても起きる。「そろそろ、マイホームを買おう」と考え、物件を見に行ったとする。最初の予算は3200万円だったが、3500万円の物件を見たら、それもなかなかいい。3200万円という数字が出発点になっているので、3500万円を見ても、2つの金額にあまり差がない気がしてくる。それどころか、「間を取って、3300万円あたりの物件もいいか」などと考える。
実際は100万円単位で違うのだから、かなりの差があるだろう。我々は、最初に大きな数字を見てしまうと金銭感覚が惑わされやすい。よくいわれる「100万円近い価格の車を買った後は、3万円のオプションを気軽に契約してしまう」というのは、これと同じ錯覚によるものだ。普段は、105円の缶酎ハイを買うか115円の発泡酒を買うか、真剣に悩むというのに。
金額の錯覚を排除するには、まず数字だけを思い浮かべるといい。はたして、スーツ代の2万5000円が財布からなくなっても困らないか。これだけあれば、5回は飲みに行けるかもしれない。マイホームなら、予算オーバーの100万円を貯めるのに何年かかるだろうか。頭金を貯めるのにあれだけ節約したというのに……。そもそも、このような冷静さを保つことができる人なら、こんな錯覚には陥らないともいえるのだが。
「割引」より「100円均一」のほうがよく売れる?
我々の消費欲をそそる罠は、まだまだある。表現や見せ方によって、受ける印象や選択するものが変わる現象を「フレーミング効果」という。
例えば、100人のうち、「あるダイエット法でやせた人が40%」といわれるのと、「6割の人が、体重が変わらなかった」といわれるのでは、受ける印象が真逆になる。言っていることは、同じだというのに。
先日、電撃退任したセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文元会長も、自著のなかで「行動経済学をビジネスにとり入れていた」と語っている。例えば、コンビニおにぎりのような少額商品の場合は、「○%引き」という比較表示よりも「100円均一」というセールのほうが売り上げが上がるという。
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