しかし、現状の日本の不動産マーケットには、気になる事象がいくつも現れ始めている。
昨年後半から首都圏のマンションの売れ行きはあきらかに「減速」してきた。下がり続けてきたオフィスの空室率は都心5区においては4%を底に上昇に転じた。アベノミクスも、第三の矢である成長戦略については、いまだに明確な成果を表すには至っていない。そんな日本の「成長」に期待する外資系マネーは存在するのだろうか。
外資系投資マネーの多くは、実は昨年後半以降は不動産売買マーケットにおいて、これまでの「買い手」の役回りを変えて「売り手」に転じている。日本の不動産価格の「値上がり」を享受できる状態になった投資家が多くなったからだ。中国人をはじめとする外国人投資家が買い漁った湾岸タワーマンションも、昨年後半から目立って「売り」物件が増えているという。
仮に東京五輪までの「上げ相場」を予測するマーケットであっても、理屈通りに東京五輪まで投資を続ける投資家はいない。「売り」は全員が「売り」と気づく前に「売り抜ける」のが投資の鉄則だ。需要が盛り上がらないのであれば、なおさらだ。
したがって、英国のEU離脱による「円高」は、彼らにとっては日本不動産の絶好の「売り場」となる可能性が高い。世界の潮流は、株式や不動産のようなリスク資産からの回避を探る展開になりそうだ。世界中で相次ぐテロ、災害、移民問題には宗教も絡んでくるのでやっかいだ。
イタリアの金融機関の不良債権問題は、英国EU離脱をきっかけに世界的な金融リスクを高めるのではないかという指摘も出始めた。金融の引き締めがリーマンショックの時のように全世界一斉に向かう可能性については否定的な見方が多いが、「対岸の火事」と片付けられるかは予断を許さない。
「日本オープン」を開催できるか
こうした状況のなかで、投資マネーがリスクを回避するために日本の不動産に投資してくる可能性は、残念ながらあまり期待できない。
日本は移民の受け入れをずっと「回避」してきた。その結果、現在のEUのような深刻な問題は生じていない。しかしその一方で、移民を受け入れないことで、皮肉なことに人口は減少の速度を速め高齢者が溢れかえる、国としてあまり「成長を期待できない国」になりつつある。英国からこぼれてきた投資マネーが、行き場を失って日本の不動産にやってくるという理屈は、あまりにも自己都合の過剰な期待と言わざるを得ない。