ヘッジファンドの利回りは、たった2〜3%?“減らさない”資産運用がトレンドに
ゴールドマン・サックス、ベイン&カンパニーなどの複数の外資系金融機関やコンサルティング会社を経て、ライブドア時代にはあのニッポン放送買収を担当し、ライブドア証券副社長に就任。現在は、経営共創基盤(IGPI)でパートナー/マネージングディレクターとして企業の事業開発、危機管理、M&Aアドバイザリーに従事するのが、塩野誠氏である。そんな塩野氏が、ビジネスのインフォメーション(情報)をインサイト(洞察)に変えるプロの視点を提供する。
にわかに株式市場が活況を呈してきています。昨年の11月から今日まで日経平均はおよそ30%上昇しており、何も言わずにマーケットにベット(賭け)しておけば収益機会があった状況となっています。
筆者が年始に、ある会社の上場記念パーティに出た時には、久々に1999年や2000年初頭のITバブルの時に見たような光景を目にして、ドキドキしました。マネーの過剰な流入により、急激に資産価値が上がり始めたり、普段は株式投資にはまったく興味を示さない一般の人々が「あら、あんた、今は株が儲かるらしいわよ」と言い始めると、そろそろ市場が過熱しているというサインが出てきます。現在の話ではなく、あくまで一般論ですが。
よく言うところの「バブル」というものは、バブルの最中はわからないもので、株式市場や不動産価値が暴落した後に、「あれはバブルだった」とみんなが言うものです。私はこの話を聞くといつも、妖怪の仲間である「座敷童子(ざしきわらし)」を思い出します。言い伝えによれば、座敷童子が棲みついた家は富み栄えて裕福になり、座敷童子が出て行ってしまうとその家は没落してしまうそうです。ちなみに座敷童子が人間の目に見えるのは、家から出て行く時が多く、どこかの家が不幸にも没落してしまうと、「あの家から座敷童子が出て行くのを見た」という話がまことしやかに流布されるというのです。ある意味、家の没落の説明に後から使われるわけです。
私はわりと今まで金融市場に近いところで仕事をしてきましたが、数ある市場の格言の中でいくつか好きなものがあります。例えば、「Enjoy the party but dance close to the door(パーティを楽しみなさい、でも踊るのはドアの近くでね)」は好きですし、いろんなバージョンのある「頭とシッポは市場にくれてやれ」という、市場の底値と高値は誰にもわからないという格言はその通りだと思います。ほかにも「人の行く裏に道あり、花の山」という、「人とは違う道を選ぶことに投資妙味がある」という格言は、投資の世界のみならず、キャリアなんかにも当てはまる話だと思います。
また、投資の格言というわけではないですが、経済学者ケインズの「In the long run we are all dead(長期的にみれば、我々はみな死んでいる)」は、「それを言っちゃあおしまいよ」という寅さん的な風情があって好きです。非常に有名なケインズのこの言葉については、真の意味についていろいろと争いがあります。
●「減らさない」にフォーカス
市場が活況を呈してくると、新参者が市場に参加してきます。なんとなく自分は儲けられるのではないか、というオーバーコンフィデンスバイアス(自信過剰バイアス)で市場に参入してくるのです。そこで損したりすると、今一度格言を見て、古くから言われていることは本当だな、と思うわけです。こうした人たちは「儲けたい」と思って市場にポジションを持つと思うのですが、「投資は一族の資産を減らさなければいい」といった考え方をするお金持ちもいます。また、世界的な投資手法を見ても、ヘッジファンドの90年代後半から現在に至るまでの収益率は実は2~3%くらいではないか、といわれているので、だったらリスクを取らない「減らさない」にフォーカスした資産運用を選択するというトレンドが出てきています。
従来の典型的な分散投資の資産配分は株式60%、債券40%といわれていましたが、最近の「リスクパリティ投資」と呼ばれる運用ですと、短期金利74%、国債18%、コモディティー4%、株式4%といった資産配分となっており(リスクパリティ投資を行っているドイツのアキラキャピタルの例)、通常は指数先物で運用し、何かイベントが起きた際にはすぐに現金に戻せるような形になっています。実際に投資家は毎日換金可能です。
米国の年金もこうしたリスクパリティに資産配分を行っており、企業年金は4割程度をリスクパリティに資産配分しているようです。リスクパリティ投資は株式との相関を極端に減らし、大勝ちしないけど負けないように5%程度のリターン(年率平均)を目指します。