中国リスク
15年から16年にかけて、東京都心の新築マンション市場には中国人の「爆買い」とも呼べる現象が見られた。現在はその動きがすっかり収まっている。おもに湾岸埋立地のタワーマンションを買い漁った中国人たちは、当然本国の経済からの影響を受けやすい。
中国の不動産市場については、なんとも予測しがたい。なぜならば、中国に関しては純粋に需給関係だけでは市場が動かないからだ。まず、資本主義的な経済構造がかなり未熟である。人々は根拠の希薄な材料を当てにしてマンションなどを買い増ししている。まるであの平成大バブルの時の不動産業者が「今3億円でこの土地を買ったら、半年後に5億円で売れるはずだ」という見通しで、不動産を買いまくっていた状況と似ている。あの時の日本では、ほぼ不動産業者だけがプレイヤーだったが、今の中国は一般市民も同じようなノリでマンションをどんどん買っているのだ。
普通に考えれば、いつかそんなバブルは崩壊する。日本は平成バブル崩壊後に「失われた20年」を経験したが、中国のあのバブルが崩壊したら経済はどうなるのか。しかし、中国の不動産バブルは「崩壊する」と言われ続けてすでに10年近い。その間、何度か危機が訪れたが政府が介入することで崩壊を免れた。そしてまた、新しいバブルが始まる、というサイクルの繰り返し。その間、雪だるま式に膨らんだと思われる不良債権予備軍のスケールは、いかばかりとなっているのだろうか。正確な統計数字はどこからも出てこない。
中国の不動産バブル崩壊が起きれば、その影響はもろに日本に及ぶ。また、そうなれば中国経済が全体的にクラッシュするわけで、それこそリーマンショックの数十倍の悪影響を世界に与えるはずだ。しかし、中国政府は常に巧みな政策で切り抜けてきた。できることなら、世界が驚くようなバブル対策で、なんとか軟着陸させてほしい。
海外からの「ショック」
一方、日本国内の経済状況を見ると、不動産価格に下落圧力がかかる要因を見いだせない。経済は好調。多くの企業が過去最高益を更新しそうだ。そして、建設工事の現場では、依然として人手不足が続いている。
ただ、気になるのは経済全体が好調であるにもかかわらず、いつまでたっても個人所得が増えていないことだ。だから、東京の近郊以遠の新築マンション市場はかなりの販売不調。価格は上がっても需要が追いついていない状態だ。そして、各販売現場ではあからさまな値引き販売が行われている。そこでは需要と供給の関係による健全な価格形成が行われているのだ。
願わくは、日本の不動産市場も海外からの強烈な影響を受けずに、静かにこの3年ちょっとの間に膨らんだ局地バブルを緩やかに調整してほしい。急激な下落や、海外からの「ショック」は、またもや「失われた20年」のような悪夢の再現につながりかねない。
(文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト)