ここ5年ほど、都心のマンションは「値上がりする」というコンセンサスのもとに市場価格が形成されてきた。その根拠を考えると、いかにも乏しい。ただ、実際には新築、中古とも値上がりを続けてきた。東京都の港区では、この5年で1.5倍程度は確実に値上がりしたと私は理解している。
資本主義経済にあっては、モノの価格は需要と供給の関係で決まる。これは不動産についても基本的には適用できる。
たとえば、賃貸住宅市場においては今もこの需給関係による価格形成機能は、それなりに働いている。供給過剰なエリアにおいては、表面的な募集賃料が確実に下落している。また、都心の人気エリアにおいてさえ、価格交渉が容易になっている。
さらに、賃貸市場においては可視的な募集価格の背景が大きな変化を見せている。たとえば「AD」と呼ばれる、仲介業者への規定外報酬の取引慣行がすっかり蔓延してしまった。不動産の賃貸借を仲介する場合、業者は月額賃料1カ月分を超える手数料を取ってはいけないことになっている。ただ、募集に関して要した広告料などは別途請求できる、という例外規定がある。
かつて、賃貸住宅が貸し手市場であった時代には、仲介業者は借り手からこの1カ月分の仲介手数料のみを得ていた。ところが、今や借り手市場である。賃貸住宅のオーナーは自分のアパートやマンションに少しでも早く借り手を付けてほしい。そこで、あらかじめ仲介業者にADの支払いを約束する。「借り手を付けてくれたら、広告料(AD)として家賃の2カ月分をお支払いする」といった具合だ。
ADは1カ月から2カ月分に設定するのが通常。ただ、不人気エリアになると3カ月以上も珍しくなくなる。この場合、仲介業者はそういう住戸に借り手を付けると、本来の1カ月分に加えてAD2カ月分を合わせて3カ月分の実収を得ることになる。そうなれば、業者としては自然とADの付いている住戸を優先的に紹介することになる。
このADという業界独特の取引慣行により、賃貸住宅の表面的な募集価格は変わらなくても、オーナーに入る賃貸料は確実に減っている。
築2年の湾岸タワマン、購入価格から400万円下げないと売れない
私のところには、エンドユーザー(一般消費者)さんからマンション購入に関するさまざまな相談が寄せられる。最近寄せられたある相談は、江東区の湾岸エリアにあるタワーマンション購入に関するものだった。その物件は建物が竣工して約2年。元の購入者が竣工直後から新築購入価格から300万円上乗せして売り出したが、1年以上買い手がつかなかった。そこで最近、購入価格より200万円下げた価格で再度売り出した。私への相談者は、そこからさらに200万円下げた価格で交渉してみたが、どうやらまとまりそうだという。まあ、ベストではないがベターなラインだろう。