元国税局職員、さんきゅう倉田です。休日にすることは「差し押さえ」です。
税金を滞納すると、督促が来て、それでも滞納を続けると差し押さえが行われます。みなさんの周りには税金を滞納するような不届き者はいないと思いますが、芸人の世界にいると、ちょこちょこそういう人間を見かけます。突然、預金通帳に「サシオサエ」と表示されて、預金が引き落とせなくなるそうです。
また、テレビ番組で、差し押さえの現場が放送されることもあります。それらは、基本的には地方自治体の差し押さえであって、国税ではありません。今回は、事情があって相続税を滞納した、ある納税者の事案を紹介します。
物納が認められず、納税が困難に
Aさんは、親族が亡くなり、1億円ほどの相続税を納める内容の相続税の申告書を税務署に提出しました。ちゃんと期限内に正しく申告したわけです。ただ、現金で納税することはできませんでした。そこで、「物納」という、相続税に認められた、不動産などで納める方法で納税することにしました。物納には、申請が必要です。Aさんは、ちゃんと申請しました。
しかし、現地調査の結果、Aさんが申請した物件は道路に接面していないため、国が処分することが困難であるとして物納が認められませんでした。Aさんは困ってしまいます。そこで、「延納」という、納税を待ってもらう手続きを取り、国税側もこれを認めましたが、その後、Aさんが期限内に納税しなかったため、まず督促が行われ、さらに差し押さえが行われてしまいました。
国税通則法では、「納期限までに完納されないとき、担保として提供された金銭を国税に充て、金財産を処分してその国税及び処分費に充て、なお不足があるときは、他の財産について滞納処分をする」とされています。そして、「滞納者が督促を受け、督促状を発した日から10日以内に完納しないときは、徴収職員は滞納者の国税につき、その財産を差し押えなければならない」ともあります。また、滞納者の財産を差し押さえる場合の時期及び財産の選択は、徴収職員の合理的な裁量に委ねられています。
今回の事案では、滞納国税を徴収するため、差し押さえ処分をしたところ、金額が足りませんでした。そこで、相続財産以外も差し押さえることになったわけですが、Aさんは、差し押さえ処分は相続財産の範囲内で行うべきであり、他の財産にまで及ぶ差し押さえは取り消すべきであると主張しました。しかしながら、相続税の滞納国税を相続財産から徴収しなければならないとする法令上の規定はなく、Aさんの主張には理由がありません。勝手な解釈で恣意的な主張をしていることになります。
Aさんと国税のやりとりは3年以上にも及びました。その間にAさんの所有する不動産は価値が下がってしまい、それは国税側に責任があるとAさんは追及しました。処理がもっと早ければ、不動産を売却して相続税を払えたのに、今は価値が下がったから払えなくなったとの主張です。
しかし、国税の差し押さえ処分の一連の手続きに不当な点はなく、さらにその間に国税がAさんに「財産を処分したらだめだ」と言った事実もありません。つまり、Aさんは財産を売却することができたのに、自分の意思で売却しなかったわけです。それについて国税の責任を問うのは無理があります。
反対に、3年ほったらかしにして不動産価格が上がっていたら、「国税さん、ありがとう」と言って、多めに納税するのでしょうか。きっとしないでしょう。自分の判断で売らなかったのに、下がったら他人のせいにするというのは、筋が通りません。
結局、Aさんの主張が認められることはなく、相続財産以外の財産を差し押さえられることになりました。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)