一方、世田谷区では2014年以前は200万円台が基本。高くて300万円台。それも後半まで。今、文京区では値上がりしたとはいえ400万円を大きく超えると売れ行きが途端に悪くなる。世田谷区でも400万円超が普通になったが、売れ行きはよろしくない。
最近、財閥系大手が文京区内の好立地の物件を400万円台前半で売り出す、という事例が見られた。私はその物件について「400万円台中盤でも検討範囲」とレポートに書いていた。しかし、売主企業は「それでは売り切れない」と弱気になったらしい。さらに、その物件の通りを挟んだ向かい側で新興デベロッパーが坪単価390万円前後で売り出すという情報も入ってきた。坪単価400万円前後というのは、今の世田谷区の相場観だ。
つまり、今の世田谷区と山手線内の文京区の新築マンション価格は同水準、ということになる。本来、交通利便性に優れている山手線内の文京区は、世田谷区よりもマンションの価格が高くていいはずだ。しかし、それが同水準というのは歪だ。
なぜそういう珍現象が起きているのか?
私の見るところ、それこそが「実需の頭打ち」なのだ。つまり、結局のところ実際に住むために買う、という実需層が購入可能なギリギリの水準までしかマンションの価格は上昇しえない、ということだ。それが坪単価にすると400万円台の前半、ということだ。約66平方メートル、20坪のマンションだと、販売価格が9000万円未満。それ以上になると実需層では買えなくなる。
文京区はすでにその水準に達しているので、それ以上には上げられなくなった。世田谷区もそこまで価格上昇したところで、それを超えるレベルにまでは実質的に上がっていない。どちらも「実需の頭打ち」によって、坪単価400万円台の前半で上げ止まりになってしまっているのが、今の状態ではなかろうか。
多摩川を越えた川崎市の武蔵小杉においても、タワーマンションの上層階は坪単価400万円に達するという。最近、あるデベロッパーの市場担当者から聞いた話によると、来年あたりは千葉県の浦安市で坪単価400万円前後の新築マンションが売り出されるらしい。それはもう、狂っているとしか言いようがない。いったい誰が買うのだろうか。
山手線内の文京区と、武蔵小杉や浦安の新築マンションの価格が同水準になっているとしたら、どちらを買うべきかは自明である。
不動産価格の下落はスケジュール化されている
この局地バブルはいつか終了する。
たとえば、金利が上昇すれば不動産価格は下落する。日本銀行の黒田東彦総裁は「物価上昇率が2%になれば金融緩和を縮小する」と明言している。2018年8月の物価上昇率は1.3%。円安と原油高、さらに人手不足が続けば近い将来物価上昇率が2%に達することもあり得る。
そうでなくても2019年10月には消費税が10%になる。2020年の9月には五輪が終わる。不動産価格の下落はある程度スケジュール化されているのだ。いったん下落が始まった時、真っ先に下がり始めるのは、もっとも歪に価格が上がったエリアである。
世田谷区や浦安市で新築マンションの購入を検討している方に申し上げたい。
「早まってはいけない」
(文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト)