税逃れが「犯罪」に?
ここで、Aに積極的な逋脱(ホダツ=脱税)の意思があったかなどが裁判で争われることとなりました。現在の税務上の不正では、重加算税を賦課されて終わりで、犯罪として処罰されるのは、国税局査察部の案件となっています。しかし、記録を見ると当時は、どうやら「物品税の逋脱」という罪があったようなのです。
単純な税逃れを意図して行った行為が犯罪として処罰されるというのは、税務調査にあい、不正を認定され、重加算税を賦課された経験のある方たちからすると、寝耳に水かと思います。当時は納税者に厳しかったようです。
逋脱犯の成立には「詐偽、その他の不正行為が積極的に行われること」が要件で、単純無申告はそれに含まれない、とされていました。Aは書類の破棄も行っていましたが、単純無申告の時期もあり、単純無申告であれば逋脱罪に当たらないと主張したのです。しかし、今回のような、事実をまったく正規の帳簿に記載せず、その実態を不明にする消極的な不正行為は、帳簿を破棄する、いわゆる売上除外などで行われる手法と変わらない、それは「詐偽、その他の不正行為」になる、と判断されました。
Aが物品税法に明るかったとは思えず、単純無申告であれば逋脱罪に問われないという事実は知らなかったかもしれません。それまでの判例では、そのようになっていて、弁護士が入れ知恵したのかもしれません。しかし、この事件で最高裁は新たな考えを示すに至りました。税務調査があったのに、税の徴収を困難にする工作を行ったことが認められ、それは逋脱罪に該当する、判例違反ではない、というものです。
軽い気持ちで行った、売上に関する書類の破棄や、申告を忘れてそのままにする行為というのは、条件が揃えば社会的制裁を受ける可能性があります。どんなときも、注力して、正しい申告が望ましいのです。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)