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鬼塚眞子「目を背けてはいけないお金のはなし」

「警察」をかたる高齢者狙いの詐欺&ATM詐欺が激増!「カード預かる」は100%詐欺!

文=鬼塚眞子/一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表、保険・介護・相続ジャーナリスト

 15分ほどして、“銀行協会”を名乗った人物が現れた。念のためにドアチェーンをしながら、半開きにしたドアから見ると、20代前半と思われる茶髪の青い運動靴を履いた好青年が立っていた。「さすが銀行協会は、こういう時に不安を取り除く、非常に爽やかな青年を取りに来させるのだ」と感心しながらも、どこかで一抹の不安を払拭できなかったために、ドアチェーンは解除しなかった。

 青年は笑顔で「カードをお預かりしますので、預かり証をお渡しします。署名していただけますか?」とA氏に預かり証を手渡した。受け取った預かり証には、銀行協会名で発行されていた。そこでAさんは一目見るなり、「カードをお渡しすることはできません」と毅然と言い放った。

 なぜ、Aさんは預かり証を見て態度を一変させたのか。それは、A氏は仕事柄、預かり証を扱うことがあり、連絡先の記載がない預かり証に疑問を抱いたからだ。A氏は「キャッシュカードを渡すことはできない」と言うと同時に、ドアを勢いよく閉めた。向こうから何か言い返す声が聞こえたが、A氏は急いで警察に電話を入れ、すんでのところで詐欺被害に遭わずにすんだことを知らされた。

 A氏の例で、おかしいと思われる点をいくつか挙げてみよう。

 A氏が高額な買い物をする際の態度が不審だと百貨店の店員が感じたということだが、個人情報保護法が施行されている今、本人の同意なしにクレジットカードの購入履歴にもとづいて警察に相談することなど、到底考えられない。

 何より驚くのは、“検事”の登場だ。警察の捜査結果を受けて、被疑者を起訴するかどうかを決めるのが検事だ。警察に被害届すら出されていないのに、いきなり検事が登場し、電話をかけてその場で『事件ですね』と判断を下すことなど、ありえない。

「A氏の事例で登場した百貨店、銀行協会以外に、裁判所、財務省、金融庁、税務署、年金事務所、自治体など、実在する公的に信用度の高い組織をかたるのも特徴。権威を重んじる高齢者だからこそ、そこをうまく利用されているといえる」(山上警視)

 ちなみに、警察等の機関がキャッシュカードやクレジットカードを預かることは「絶対にない」と山上警視は言う。

 では、キャッシュカードを銀行協会が預かることはあるのか。銀行協会広報室の担当者は「当協会職員が、個人の自宅を訪問したり、キャッシュカードや現金を預かることは、一切ない。また、銀行協会が発行するキャッシュカードの“預かり証”というものは存在しない。銀行協会を名乗る者から電話や訪問を受けても、絶対に口座情報や暗証番号を教えたり、キャッシュカードや現金を渡したりしないよう、くれぐれも注意をしていただきたい」と釘を刺す。

 A氏は社会的に相当高い地位にあり、人望も厚いという。それなのに、なぜ詐欺グループにまんまと暗証番号や預金残高まで教えたのだろうか。A氏は法律や警察関係には疎かったためだが、他の多くの方も、それは同様ではないか。それだけに、十分な注意が必要だ。

被害連鎖を招く可能性も

 警視庁犯罪抑止対策本部は、前出データやA氏が遭った犯罪の手口をどう読み解くか。

「被害者は高齢の女性が多いという傾向はあるが、全体的にみると年齢や職業も関係ない。被害に遭った方は『自分だけは被害に遭わない、見破る自信があると思っていた』と話す人がほとんどだ。それでも被害に遭ってしまう。誰もが被害に遭う可能性があることを理解していただきたい」(山上警視)

 詐欺被害に遭いたくないと誰もが思うだろうが、さらに怖いことが待ち受ける可能性がある。

「一度、詐欺にひっかかると、新たな詐欺を呼び起こしてしまう可能性が高い」と山上警視は警告する。「ある人が騙されたという情報は、詐欺グループ仲間に共有されているのか、一人の被害者が連続して被害に遭う連鎖被害も複数報告されている」と明かす。
 
 では、現金詐欺とキャッシュカードなどの詐欺では、犯罪者はどのような騙し文句で被害者に接触してくるのだろうか。警視庁の調査による代表例を以下の表にまとめる。

「警察」をかたる高齢者狙いの詐欺&ATM詐欺が激増!「カード預かる」は100%詐欺!の画像4

 もちろん、表に挙げたものだけが、すべての手口ではない。宮原警部は「登場人物や団体を変えたり、ストーリーをさらに複雑にして、新たな手口も、これからも出てくることだろう」と警鐘を鳴らす。

なぜ人は騙されるのか

 それにしても、高齢者は人生の酸いも甘いも経験しているはずなのに、なぜ騙されてしまうのだろうか。

「“親心”を悪用し、冷静でいられなくなるほどの衝撃を与え、揺さぶりを掛けることにある。いくつになっても親にとって、子供は可愛いもの。親の心理として、『わが子の一大事に、なんとかしてやりたい』と思うあまり、冷静でいられなくなるようだ」(山上警視)

 そんな親心を利用した高額被害の実例を紹介しよう。

 ある日、被害者の自宅の固定電話に「もしもし俺。東京駅近くの喫茶店にいたんだけど、上司からの電話があって、ちょっと席を離れて戻ったら、会社の取引相手の重要な書類や1億円の小切手の入った鞄を盗まれてしまって大変なことになっている。お母さん、助けてよ」と電話があった。「1億円の小切手の紛失」という言葉に慌てた被害者は、“息子”だと思い込んでしまった。さらに“息子”は、来週には小切手がまた使えるようになり、返せるめどがあること、携帯電話も盗まれたので、新しい携帯電話を会社で用意してもらって、電話番号も変更したこと、「これからは新しい携帯の番号に連絡してほしい」と伝えた。

“息子”の緊迫した様子に「なんとか助けたい」との一心から、被害者は金融機関に駆け込み、窓口やATMから現金1000万円を7回にわたり引き出した。

 金融機関の窓口の担当者から「詐欺ではないか? 使用目的は何か?」との注意喚起がなされたものの、“息子”に指示された通り、頑なに「リフォーム代です」などと答え、引き出した。その後、“息子”の指示により“受け子役”に、4日間で4回にわたり、現金合計3075万円を手渡してしまった。

 冷静に考えると、相当おかしい話だ。1億円もの大金である。多くの企業は、リスク防止のために、複数の人間でタクシーや自社の車で目的地まで運ぶはずだ。仮に一人で運ぶにせよ、取引先や勤務先、あるいは金融機関に直行直帰するのが、普通の会社員の感覚だ。1億円の小切手を持っているのに、「喫茶店にちょっと寄ってお茶でも」という感覚には到底ならない。また、いくら上司からの電話とはいえ、1億円の小切手が入った鞄を置いたまま、席を外すものだろうか。

 何より、小切手を紛失したり、盗まれたなら、すぐに企業は取引銀行へ連絡し、「事故届」を出すと同時に、警察に被害届を出すことが急務だ。場合によっては、弁護士とその後の対応を相談する必要も発生する。

 新しい携帯電話を用意することを優先するなど、到底ありえない。しかも、「携帯も盗まれた」といっても、上司と電話をしているのだ。その電話は、会社の貸与用なのか、個人用の電話なのだろうか。通常、上司は業務のことなら会社貸与の電話に電話をするはずだ。となると、個人用の携帯のために会社が新しい携帯を用意したというのだろうか。

 いずれにせよ、1億円と聞いて被害者は動転したのだろうが、こうした実務手続きを知っていれば、話も違っただろう。

被害に遭いやすい“魔の時間”

 被害に遭うのは独居の方ばかりと思っていたら、大きな間違いだ。「先ほどの母親のように『夫に言えば、子供(孫)が叱られて可哀そう』と一人で抱えてしまい、被害に遭うケースも珍しくない」と山上警視は言う。

 それにしても、母親はなぜこうも騙されやすいのか。山上警視は「体調がすぐれなかったり落ち込んでいる時に、ふと子供を名乗る電話に、嬉しさのあまり、いつもと声や様子が違うと思っても、信じ込んでしまう」

 母にとって子供とは、何歳になっても、いつまでも心配でかわいい存在なのだろう。
 
 ところで、被害に遭いやすい“魔の時間”をご存知だろうか?

「犯人グループは平日の日中を狙って、電話をかけるケースが多い」(山上警視)

 なぜ、平日の日中なのか。

「平日の日中は、同居する家族がいなくなり、被害に遭いやすい高齢女性が一人で在宅する場合が多く、判断の猶予を与えないという理由と、『今日中にお金が必要』と早急に現金を準備させる金融機関の開店時間またはATMの当日取引時間帯が、そのタイミングとなるのだろう」(山上警視)

特殊詐欺撲滅のリーサルウエポンは

 当然、警視庁も受け子等の検挙やアジト摘発に努めるなど、根絶に向けた対策を強化している。また、無人ATMに対しても高齢者への声掛け、見守りが行えるように、地域と協力態勢を整備している。

 それでも、被害は後を絶たず、また新たな手口の被害が生まれる。大切な財産を守り、だまされないように秘策はあるのだろうか。

「詐欺撲滅のためには、冷静さと勇気が大切になる。少しでもおかしいと感じたら、動揺しない、慌てないこと。電話を切った後に、事実を確認すること。脅迫めいた言動を受けるケースもあるようだが、毅然とした態度で接し、すぐに警察に通報してほしい。日中に一人でいるときにかかってくる非日常的な内容の電話には、くれぐれも注意していただきたい」(山上警視)

 詐欺に遭っているのに騙されたと思っていない人もいる。あとで発覚しても時すでに遅し。「被害金額の大きさにかかわらず、盗られたお金を取り戻せる可能性は非常に低い」(山上警視)というのが現実であることを、深く心に刻んでほしいと思う。

 そうならないためのリーサルウエポン(武器)はないのか。

「特殊詐欺の手口は、犯人が自宅の固定電話を利用することから始まる。どんなに用心していても、その時の体調や心理状態いかんで、巧妙な手口を見破れるとは限らない。そのためにも、留守番電話に設定して、電話に出ないことだ。留守番電話に録音されたメッセージを聞き、必要があれば折り返し電話を掛ける習慣づけを日頃から行うことが重要だ。ただ、特殊詐欺に登場する行政機関や百貨店など、普段付き合いのない企業や団体は、その番号にかけ直すのではなく、代表番号を調べて掛け直す慎重さも求められる」(山上警視)

 倦怠期にある夫が妻に電話をかけ「あっ、オレだけど」と言ったら、「うちには、オレはいません」と妻に勢いよく切られたという、哀しいサラリーマンの実話もある。こんな笑い話ですむならいいが、高齢になってから経済的・精神的なダメージを受けた傷を癒すのは容易ではない。そうならないためにも、「すぐに電話には出ない」のが新常識になりつつあるのかもしれない。(データなどは取材時時点)
(文=鬼塚眞子/一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表、保険・介護・相続ジャーナリスト)

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュを設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで活躍
介護相続コンシェルジュ協会HP

Twitter:@kscegao

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