元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな休日の過ごし方は「節税」です。
この記事を書いている頃、所得税の確定申告期間が折り返しました。老いも若きも男も女も税務署に並んで確定申告をしています。確定申告のときのよくあるミスとして、「印鑑を忘れる」があります。申告書の作成が終わって、いざ提出しようとしたら「印鑑ありますか?なければ提出できません」と言われます。
さんざん並んだのに、「家に帰って判子を取ってこい」と言われたら、温厚な紳士だって怒りをあらわにするかもしれません。実際には、職員の方は印鑑を販売している最寄りの店舗を把握していることが多く、そちらに誘導されます。それでも手間ですよね。
「いい大人なんだから、印鑑くらい持ち歩こうね」と思うこともありますが、うっかり忘れてしまうこともあるでしょう。それでは、押印せずに申告書を提出してしまった場合は、どうなるのでしょうか。
提出時に、職員は台所のぬめりよりしつこく押印をチェックしますが、それでも見逃してしまうことが0.0000001%くらいの確率であるようです。所得税ではありませんが、のちのち気づいた職員さんが「再度提出してください」と連絡して、納税者がそれに応じたが、申告期限が過ぎていたので無申告加算税を賦課されたことがありました。
納税者のAさんは「な、な、なんでやねん!」と、天に穴が空くほどの勢いで叫びました。
Aさんは父親を亡くし、財産を相続しました。4人きょうだいだったので、お母さんを含む5人で仲良く財産を分割し、10カ月以内に相続税の申告も行いました。相続税の申告書は「財産を取得した人」の欄に、相続人全員の氏名を記入し押印するようになっています。Aさんたちは、署名はしたものの押印を忘れて申告してしまい、期限を過ぎてからまったく同じ内容の申告を、今度はしっかりと押印して行いました。
すると、期限後申告だとして「無申告加算税」を課されてしまいます。税務署の主張としては「押印がない申告書は、申告の意思がないとみなします。意思のないものは提出を認めません。だから、無申告です」とのことでした。
Aさんは、「押印がないだけで、申告書として認められないのはおかしい。税務署に直接持っていったし、納税も期限内に済ませたじゃないか」と反論します。
確かに、税法は「国税に関する法律に基づき税務署長に申告書その他の書類を提出する者は、書類に氏名及び住所を記載しなければならない、書類には書類を提出する者が押印しなければならない」としています。
これについて、税務署とAさんは争うことになりました。さて、納税の申告において、押印とはどの程度重要なのでしょうか。提出された申告書に押印がない場合は、来署してもらって提出済みの申告書に押印してもらうような手続きが一般的であるように思えます。押印は重要だけれど、押印がないことによって、申告書の要件を充足していないとは考えないわけです。また、印鑑の概念がない外国人が日本で確定申告をする場合は、押印を求めることはありません。サインのみで申告書は受理されています。
そのような事実があるにもかかわらず、Aさんは申告書の再提出を求められ、期限後申告とされてしまいました。
争った結果、Aさんの主張が認められることとなります。その判断の主旨は以下のとおりです。
「単なる押印漏れにすぎず、効力には影響しないというべきである。期限内申告書に該当する」
押印がなかったという形式面を重視することには理由がない、と判断されたのです。みなさんも、確定申告の際に押印を忘れて提出してしまうことがあるかもしれません。もし、後日「押印がなかったから申告は認められません」なんて言われたら、申告状況などから申告の意思があったことを主張したり、「だったら外国人はどうなんだ」などと言ってみたりすると、認めてくれるかもしれません。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)