治療方法の選択肢が広がり、治癒の可能性が高まったことは患者にとって朗報ではある。だが、先進医療には大きなネックもある。通常の健康保険が適用されないため、全額が自己負担となり、しかも医療費はかなり高い。
例えば、がんの治療に用いられる重粒子線治療なら約300万円、陽子線治療なら280万円以上かかるとされている。これらをすべて自分で払うとなったら、金銭的な負担は大きい。
そこで登場してきたのが先進医療特約だ。先進医療にかかる医療費の全額、または一部を保障してくれるほか、交通費まで支給対象に含まれる商品もある。主契約の医療保険に特約としてつけるものだが、保険料がびっくりするほど安い割に保障は大きい。
とてもお得な保険に見えるが、「どうしても必要か?」と聞かれれば、答えは「NO」だ。なぜならば、有用性には大いに疑問が残る保険だからである。
●先進医療の実態
健康保険が利かない自由診療のすべてが、先進医療に当てはまると勘違いしてしまうことが多いのだが、そうではない。先進医療とは厚生労働大臣が認可し、特定の病院や医療施設で行われる治療のみを指すのだ。
世間では最新の治療、高度な技術を要する治療として知られていても、厚労省で定められていないものは先進医療には含まれない。したがって給付金の対象にはならないのである。
さらに、先進医療という名がついているにも関わらず、認可されている種類には最先端の治療はほとんど入っていないのが現実だ。そのうえ指定されている病院数も少ない。そのため、それぞれの先進医療技術の対象患者のうち、実際に先進医療を利用している人は0.1~0.3%くらいしかいないといわれている。厚労省のホームページを見てもらえればわかるが、中には症例数が皆無に近いものさえある。
先進医療特約が安い保険料で大きな保障を約束できるのは、給付金を支払う確率が低いという裏があってこそなのだ。保険会社が損をする商品を販売するわけがない。
だから、「現在加入中の保険は古いから先進医療特約がつけられません。新しいものに切り替えたほうがお得ですよ」などという保険営業員の誘いにホイホイと乗ってはいけないのだ。保険営業員は新たな契約を結びたいがために勧めてくるが、契約者は損するばかりである。
これから新規に医療保険に加入するのであれば、先進医療特約をつけておいても悪くはないが、現在の保険を解約してまで加入する価値はないといえる。
(文=長尾義弘/フィナンシャル・プランナー)