(ビクターエンタテインメント/桑田佳祐)
さまざまなテレビ番組や雑誌などでもお馴染みの購買/調達コンサルタント・坂口孝則。いま、大手中小問わず企業から引く手あまたのコスト削減のプロが、アイドル、牛丼から最新の企業動向まで、硬軟問わずあの「儲けのカラクリ」を暴露! そこにはある共通点が見えてくる!?
2011年9月11日。宮城県の会場は、サザンオールスターズの名曲「希望の轍」の合唱で終わった。桑田佳祐さんは「帰ってくる」と観客に約束し、そのとおり、今年12年の9月15日に宮城セキスイハイムスーパーアリーナから全国公演をスタートさせた。
CDが売れないといわれているなか、ベストアルバム『I LOVE YOU』 は70万枚を超えるヒットとなり、インタビュー集『やっぱり、ただの歌詩じゃねえか、こんなもん』(新潮社)も売れている。
桑田さんは78年に「勝手にシンドバッド」でデビューしてから、34年間ずっと日本のミュージック界でトップを走り続けている。サザンオールスターズ自体は、残念ながら活動休止中だけれど、ソロ活動で発表される楽曲にファンは魅了されてきた。
私は小学校6年生のときに映画「稲村ジェーン」(桑田佳祐監督作品)を見にゆき、ほとんど理解できなかったけれど(そして社会人になってから見なおしても、その面白さはわからなかったけれど)、その映画音楽の良さに衝撃を受け、そこから氏の発表されたすべての作品を買い、そして聴いてきた。
桑田佳祐さんの魅力は、どこにあるのだろうか。そしてその魅力を考えることは、私たちビジネスマンとも関係する。桑田佳祐というヒットメーカーとは、つまり音楽ビジネス成功者のことだ。市場で成功しているひとを考察することは無駄にはならないだろう。
ところで私は、「ビジネスと創造性」について考えるとき、いつも桑田佳祐さんを思い出す。アーティストには感性が、ビジネスマンには理論が必要だといわれる。アーティストは才能と運に支配されるから、一般人には参考にならないーーとも。たしかに、私は桑田佳祐というアーティストの才能も運も否定するものではない。メロディの卓越性、歌唱力に加えて、時代と合致した偶然もあるだろう。
しかし、より注目したいのは、桑田佳祐さんの努力だ。そして、その努力は、感性や思いつきをベースとせずに、常に「売れるものをつくる」という意思に支えられている。
●1秒単位で録音し直す執念
桑田佳祐さんのイメージとして、海辺でギターをかき鳴らし、いつの間にか曲をつくってしまうひと……と思ったら、それはかなり異なる。また、勢いでレコーディングしていると思ったら、それもかなり異なる。
桑田佳祐さんは、アルバムに「12曲入るとしたら、12曲しかつくんない男」であり(小室哲哉さんとの対談『NON EDIT TALK』<フジテレビ系>による)、曲をつくるために「もう、ひたすら考えてですね、もうぜんぜんその、アイデアが浮かんでこないで、ひたすら考え」るという。インタビューで、アーティストは内心を語ることを求められる。アーティストは、楽曲を感性のままつくっている幻想があるからだ。しかし、さまざまなインタビューによると、桑田佳祐さんにとって、曲をつくるのは「難産」であり、かつ「売れる曲」を悩みつつ追い求めてきた。