人間関係が希薄になったといわれるなか、2011年の東日本大震災などの大災害を経て、人と人の「絆」がクローズアップされることが増えた。また、新型コロナウイルスの感染拡大により他人と接触する機会が制限されると、人間関係の大切さがあらためて見直されるようになってきているように感じられる。
人間関係は、生きていくために大切であることはもちろんだが、より幸せな生き方や働き方を実現させるためにも、重要な役割を果たす。
6月20日に『10年後に活きる人脈のつくり方』(日本能率協会マネジメントセンター)を上梓した河上純二氏に、人脈のつくり方や人脈の活かし方などについて話を聞いた。
仕事につながる人脈づくりのポイント
――河上さんは、意図的に人脈づくりをしてきたのでしょうか。
河上純二氏(以下、河上) 振り返ってみたら人脈ができていた、という側面もありますが、次のステップに進むために何が必要かを考えながら、それに必要な人たちを探して自ら近寄っていった面もあります。つまり、半分偶然、半分必然といえますが、若いうちから計画的に人脈づくりをしておけば、さらに自分らしい幸せな生活にたどり着けると考えています。それを皆さんに早く伝えたいと思い、執筆することになりました。
――友達の数が多い方、SNS上でつながっている知り合いが多い方はよく見かけますが、そういった人間関係が仕事につながるケースはなかなかないように思えます。仕事につながる人脈づくりのポイントはどこにあるのでしょうか。
河上 「ワーク・ライフ・バランス」として人間関係においてもプライベートと仕事を分けている方が多いと思いますが、私はプロデューサー職だったこともあるかもしれませんが、昔から仕事と趣味に垣根がないと考えてきました。どこから仕事につながるかわからないと常に考えており、仕事と生活を一体ととらえる「ワーク・アズ・ライフ」が私のスタンスなのです。
――では、仕事や将来の自分の人生につながる人脈はどのように築いていますか。
河上 自分なりの人との距離を一気に近づけるキーワードを持つと、がぜん人との出会いの濃度が変わります。僕にとっては「アミーゴ」というキーワードでした。30代くらいまでは職場と家以外のサードプレイスの場で出会った方が仕事につながることはあまりなかったのですが、そこが変わったのは、自分なりの人との距離を一気に近づけるキーワード「アミーゴ」をうまく使って距離を縮められるようになったところにあります。
当初は仕事以外で出会った方々を「アミーゴ」と呼んでいたのですが、40歳になる頃に仕事とプライベートの垣根を意図的に取り払い、仕事で出会った方も極力すぐに「アミーゴ」と呼ぶようにしたところ、サードプレイスで出会った方々がプライベートを越えてつながり始めたんです。すると、そこから仕事に突発的なアイディアや事業拡張案などが生まれてくるようになりました。
――河上さんは初対面の人との距離を詰めるのが上手ですが、相手が引いてしまうような場合はどうしているのですか。
河上 距離をつめるとはいえ、自分から一方的に寄せていっているのではなく、相手の気持ちを引き出していることのほうが多いんです。基本的には相手の話を聞き出して、向こうから近寄ってきてもらえるように努力しています。いわゆる、傾聴姿勢が大事だと思います。
――打ち解けるまでに時間がかかるタイプの人もいると思いますが、その場合はどのように接するのでしょうか。
河上 相手にシャットダウンされてしまうようであればどうしようもないですが、たとえばSNSでつながっていれば、ある日突然再会するチャンスが訪れたりします。その際、一気に時間を巻き戻してくれるような感じになります。とにかく、あらゆる出会いを無駄にしないようにしています。
――20代、30代くらいの頃から異業種交流会に顔を出されたり、自ら開催したりされていましたが、その頃にはすでに人脈を仕事に活用していこうという考えがあったのでしょうか。
河上 その頃は考えていなかったですね。ただ、有人関係が自分にとって大切な存在だとの認識はありました。その後、SNSの普及もあって、その人脈が加速度的に広がるようになりました。
SNSの活用の仕方と“SNS疲れ”の防ぎ方
――広がった人脈のなかから、自分の仕事に活かせそうな方にアプローチしていくのか、それとも最初から仕事につながりそうな方にアプローチしているのか、どちらなのでしょうか。
河上 実はこれまでに5~6回、意図的に人脈を広げようと模索して、自らコミュニティを立ち上げたことがあります。最初はSNSが始まった頃にグループを作成してオフ会を開催したりしたのですが、あまりにも多くの人に出会いすぎて一人ひとりを覚えていないというデメリットがありました。そこで、“顔の見えるビジネス交流会”を開き、幹事3人からスタートして、それぞれが信頼できる友人を紹介し合うという活動をするようになりました。それが仕事上のつながりを広げるきっかけになりました。
その後は、“サードプレイス”をつくって出会いの場を設けたり、大人の嗜好の場としてワインコミュニティをつくったり、今は“生涯付き合えるハイエンドな人たちのコミュニティ”をつくっています。このように、“次の自分”に必要なコミュニティを考え、人脈づくりをしています。
――SNSが普及し、さまざまなSNSが乱立してするなかで“SNS疲れ”が叫ばれ、また年齢が上がるにつれて人間関係を精査して、気の置けない仲間だけに絞って付き合う人を減らしていくという流れもありますが、真逆の動きですね。
河上 疲れないためには付き合う人を減らすのではなく、自分の価値観をはっきり決めることが大切です。“自分らしくないこと”に耳を傾ける必要はなく、“自分らしいこと”にだけ反応するようにすればいいのです。その芯がしっかりしていれば、どんなに付き合う人数が増えても、どんなにSNSで情報が流れていても、自分が揺さぶられることにはなりません。ですから、早く自分の価値観を確立することが大切です。
――どのようにすれば“10年後の自分”を描くことができるでしょうか。
河上 経営においては「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)」という行動指針・存在意義を考える基準がよく使われていますが、個人においてもMVVが大切です。これによって確固たる判断基準が確立できます。もうひとつは、漠然としたものでもいいので夢を持つことです。
私は学生時代から漠然と「将来は南の島に永住したい」という夢を描いていました。それをずっと持ち続けていたところ、少しずつ具体的になっていっています。それが自分の人生の価値基準となっていることで、その夢の実現に関係があるかないかで、人との付き合い方や選び方が変わってくるのです。引いては、それが人生の選び方にもなると思うのです。
――ありがとうございました。
(構成=編集部)