岩瀬 まぁ「残念だけど、嫌なら聞かないでください」としか返せないんですけどね……。誰でも、自分にとって学べるものはあるはずだからってことですかね。
中川 肩書だけで判断して発言の内容を吟味しないバカは、その程度の人間。もう放っておけ! ですよ。
岩瀬 今日は、仕事との向き合い方みたいな話をしたいのですが、仕事って楽しいことばかりではないですよね。むしろ、多かれ少なかれ面倒くさいことのほうが目につく。だから、仕事が楽しくなるかどうかって、結局は自分の気の持ち方だったり、仕事とどう向き合うかだよね──というのが、僕の根底にある考え方でして。
中川 そうですよ。キツイことのほうが多い!
まずは、黙ってやりなさい
岩瀬 例えば社会人1年目くらいで、「仕事がつまらない」なんて愚痴る人がいるんですけど、そういう話を聞くたびに、「本当の“仕事”なんて、まだ実は経験していないのでは?」と思ってしまう。だから、「とりあえず、黙ってやりなさい」「まずは2~3年は文句を言わずに仕事しなさい」と言っているんですが、どう思われますか?
中川 全面的に同意ですね。楽な仕事なんて存在しないですよ。
岩瀬 ですよね。それに、イヤな上司なんていくらでもいるし。ただ「イヤな上司」という見方も、一方ではどうかと思うんです。
よく「上司がおかしい」とか「会社がおかしい」なんて若手が憤って、「会社を辞めたい」なんて言っているのを聞くたび、「何が正しいのか、わからないでしょ」と。まだ若手の頃なんて、会社組織がどういうふうに回っているかも把握しきれない。また、上司には見えているけど、アナタには見えてないものがたくさんあるはずだから。
さらに言うなら、世の中には心の底から悪い人、本当の極悪人ってそんなにいなくて、みんなそれなりに基本的な知性を持って、それなりに常識的な判断をしているんじゃないかなと、僕は考えています。だから、主義主張や意見が分かれたときは、どちらが正しいとかではく、見えてるものが違うだけ、ととらえるほうがいいかな、と。
同じ課題に対して、若手と上司の見え方は往々にして違うもの。それに、イヤな上司だとしても、それなりの理由があるから上の立場に就いているわけで。もっと言うと、たとえ大変な会社だとしても、その会社はなんらかの価値を生み出してるから存在しているわけですよ。そうした価値をひとつでも見いだして肯定することなく、なんでも否定している自分がいたとしたら、否定している自分のほうが間違っていると考えたほうがいい、なんてアドバイスをしたら、「それは違う!」とまた激しく反論されたことがあって……。
中川 うん、わかります。ただ、若手からすれば苦しいだろうな、とも思う。多少は優しくしてあげなくちゃ、ツブれてしまうかも。ただなぁ……なんだかんだいって、オレも人間関係には超恵まれているからなぁ。
岩瀬 そのへんは、僕もちょっと勘違いしていましたね。中川さんの風貌から、たいへん苦労しているようなイメージがあったので。
モテないコンプレックスへの理解
中川 今でも古巣の博報堂に仕事で出入りするんですけど、先輩方が「おぉ中川。オマエ、食えてるのか?」なんて心配そうに寄ってくるんですよね。「ええ、おかげさまで、なんとか……」なんてオレが返すと、「そうかそうか、今度おごってやるよ」なんて優しくしてくれたりね。
あと、苦労している、みたいな話だと、オレ、若い頃は全然モテなかったんですよ。モテないって、すべてのコンプレックスにつながるくらい根深いもので、私生活だけじゃなくて、仕事にもすごく影響するんです。で、オレが何か悩み相談に答えたりするときは、基本的には全部「モテない男」を想定しています。イケてる人は、正直まったく相手にしていません。先ほどから岩瀬さんが言っているような「愛情のある」「熱い」みたいなスタンスがオレにあるとしたら、そういうモテないコンプレックスへの理解が、一貫してあるからかもしれません。