岩瀬 ああ、なるほど。なんか中川さんの魅力の一端がわかったような気がします。確かに、人生の悩み、仕事の悩みって、職場での人間関係と恋愛、あとはお金に結局は集約されてしまうのかなと。年を取ったら、そこに「健康」とか入ってくるのかもしれないですけど。
中川 人間関係と恋愛とお金で、悩みの9割くらいは占められているかもしれない。
岩瀬 それで、職場の人間関係でいうと、そもそも会社にはいい人しかいなくて、気持ちよく専念できて……みたいな状況を前提にしてしまうからツラくなるんじゃなかろうかと。そういう前提に立ってしまうと、イヤなヤツとか、面倒くさい人間関係がすべてネガティブに思えてしまう。
だけど、実際は気持ちよく過ごせて仕事に集中できる時間なんて、労働時間の5割くらいしかないもの。それが当たり前だと思うんですよね。そして、残りの5割は人間関係みたいな面倒くさい事柄とどうやって折り合いをつけて、すり抜けていくかに費やされてしまう。会社組織で働くというのは、そういう面倒の間を縫っていくゲームみたいなものなのかなって。要は何を基準にして、どういう期待値を設定するかで、とらえ方は全然違ってくるよね、ということなんです。面倒をすり抜けるのも仕事のうちと思えれば、気の持ちようも確実に変わってくるはず。
中川 オレなら「おいオマエ、カネを稼ぎたいなら、それくらい我慢しろ!」で終わりですよ。
下を向いて黙々とやることの大切さ
――『入社10年目の羅針盤』の中に、「足るを知る」ことの大切さが語られていました。「足るを知る」ためのコツというか、持っておきたい視点があれば教えてください。
岩瀬 余計なことを考えず、黙って仕事する……という姿勢があるといいかもしれませんね。僕も、ウチの若手に言いますから、「いいから黙ってやりなさい」と。ただ、そう言うと「そんな、ライフネット生命の新人が『黙ってやる』だけでいいんですか?」なんて意識高く返されたりするんですよねぇ。「いやいや、そういうことは黙ってなんでもできるようになってから言ってね」と思うこともあります。
最近の若い人って、なまじいろいろな情報に触れているから、意識が高く、目線を上に向けているつもりになっている人も多いんだけど、一方で、下を向いて黙々と、我慢しながら何かをやることに対して、すごくひ弱になってる印象があるんですよね。「岩瀬さんは、1~2年目の頃、どんなことを考えて仕事をしてましたか?」などと若手に問われたりしますけど、僕、別にビジネス書とか読んだことなかったし、セミナーなどにも行ったことがなかった。毎日ヒーヒー言いながら、朝から晩までエクセルを叩いたり、プレゼン資料を作ったり、ひたすら黙って仕事をしてましたよ。
それが最近の若い人って、サイゾーみたいな素晴らしいビジネス誌を読んだりして自己啓発に励んだり(笑)、SNSでつながって意識の高い交流を持ったりしている。ある意味、恵まれすぎて変な感じになってしまっているようにも思うんです。
その仕事が、自分にどんな成長をもたらせてくれるのか?
中川 まったく同感ですね。確かに入社1年目とかで「いいから黙ってやれ」と言われた仕事が、どういう結果や効果をもたらすのかなんてわかるわけがない。そして、とにかく仕事をきっちりとこなす経験を積み重ねないと、それがどんな成長を自分にもたらせてくれるかも、同じようにわからないと思う。