岩瀬 ただ、考えてみれば、自分もなんだかんだいって恵まれた環境でずっと生きてきたし、本当に厳しい環境のことは知らないところがある。だから、発言をしてもどこか地に足が着いていないというか、悩んでいる人の本当の痛みを理解できていないような気がして……。これまでを振り返ってみても、
「本当にいい上司、いい先輩、いい仲間に恵まれてきただけなんじゃないか?」
「それでヌクヌクと過ごしてきただけなんじゃないか?」
と。それでは、みんなと悩みを共有できないし、相手にも聞いてもらえない……みたいな悩みなんですけどね。
例えば、以前、某ニュースサイトで大学時代からの友人である常見陽平(人材コンサルタント/著述家)と、社畜とかパーソナルブランディングといったテーマで対談したときも、「所詮はエリートの上から発言」みたいな読者からの反論がものすごかった。常見は一橋大学からリクルート、オレは一橋から博報堂というキャリアなんですが、それだけにとらわれて「高学歴で一流企業出身のコイツらの発言なんて、説得力がない」なんて言われてしまう。
経歴や肩書で先入観を持つな
岩瀬 そんなことを言われても……ですよね。それで、どうされたんですか?
中川 「正直、オレ自身は高学歴だとか社歴が華やかとか、どうでもいいと思っている。まずは言っていることの“内容”で判断しろよ」なんて話を、ツイッターで返しました。「確かにオレは世間からみれば、高学歴で、キャリアも派手かもしれない。ただ、それで聞く耳を持たないなんてバカげている。認めるところは認めろ、バカ!」と。「いちいち経歴や肩書で先入観を持つんじゃねーよボケ。他人の言うことには、とりあえず耳を貸せ。少しは役立つことを言うかもしれないだろ」と言い放ってやりましたよ、ガハハ。岩瀬さんも、そういうスタンスでいいと思う。
岩瀬 何事にも学べることはあるし、主張の本質は経歴とか境遇とは違うところに存在している、みたいな考え方ですよね。
中川 そうそう。そんなことを言ったらね、ど田舎から中卒で出てきて、ブラック企業とか非正規雇用でずっと苦労し続けてきました、でもそこから成り上がって今は社長やってます……みたいな経歴を持つ人しか、人生相談を受ける資格がないってことになっちゃう。そのほうが、よほど偏っているでしょ。
岩瀬 なるほど、確かにそうですね。ありがとうございます。元気が出ました。
中川 そんなことで悩まないでくださいよぉ。
岩瀬 いや、ネットでの発言を見ると、中川さんはとても地に足が着いていて、ちょっと乱暴だけど、血の通った愛情あふれるアドバイスをしてるよなぁ、と唸らされていたんです。ただ、中川さんの風貌のせいか、一橋大から博報堂っていう経歴を忘れてました(笑)。
“貧乏”に見せる
中川 それも狙いといえば狙い。パーソナルブランディングで“貧乏”に見せてますから。
今うかがったような岩瀬さんの悩みって、岩瀬さんが真摯かつ謙虚でいらっしゃるからこそのものだと思う。そうやって真剣に発言してくれている人の話を、「オマエは東大行ってボストン・コンサル行って、ハーバードでMBA取ってるから」なんて理由でちゃんと聞こうとしないなんて、それこそ話になりませんよ。