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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第28回

出世の条件は不倫!? ロンドン赴任の新聞記者を追いかけ愛人と妻が現地で大騒動!

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「Thinkstock」より
 --巨大新聞社・大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に、以前から合併の話を持ちかけていた。そして基本合意目前の段階にまで来たある日、割烹「美松」で、村尾、両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)、小山成雄(日亜)との密談が行われ、終了後、松野と村尾はそれぞれの愛人の元へ帰っていった。そして、数日後の4人による第2回目の会談が行われた--。

 大都、日亜両社の取締役編集局長の北川常夫と小山成雄はお互いに譲り合う風だったが、北川が切り出した。

 「ネット新聞は経済情報を網羅した媒体にしますけど、それをベースにした紙媒体は読者層を絞り込むのがいいのではないか、という線では一致しました」
 「で、どんな読者層を想定するんだ?」
 「想定は投資家ですが、個人にするか、機関投資家にするか、意見が分かれています」
 「君らの頭にある紙媒体は、株式新聞みたいな媒体なんだな」

 今度は村尾が脇に座っている小山に聞いた。

 「ええ、そうですね。株式投資がメインですが、投資全般の情報をカバーするのがいいと思っています。でも、個人投資家と機関投資家では求める情報が違います。紙の媒体は2種類にしてはどうかというのが僕の意見です。でも、北川さんは違います」
 「どう違うのかい?」
 「僕はですね。紙媒体を2種類というのはどうか、と思っています。大体、これからどんどん縮小するんですからね。僕らの話はそこまでで、その先、ネット新聞とのリンクをどうするとか、価格設定をどうするとか、重要なテーマはまだ手付かずです」
 「1週間じゃ、そんなところか。でもな、株式新聞みたいな媒体を念頭にしているなら、村尾君のところの日亜経済出版の経済雑誌とどう連携するかも考えた方がいい」

 五段重ね弁当を広げ、おかずを肴に熱燗をちびりちびりやりながら、村尾と小山のやりとりを聞いていた松野が苦笑いしながら、容喙した。

 「君たちが来る前、先輩と話していたんだ。うちの『日亜EJ』は経済雑誌では部数トップだし、季刊誌の『日亜ER』も経済学者の間で最も権威がある。それを利用しない手はないだろうってな。そうですよね、先輩」

 村尾が敷衍すると、2人を代表して、北川が答えた。

 「わかりました。でも、いつ頃までに骨格をまとめればいいですか」
 「そうだな。村尾君、合併の発表は5月にしないといかんよな」
 「株主総会のことを考えると、遅くとも5月半ばには発表したいですね」
 「その時には新媒体のこともある程度話した方がいいだろう?どうだ」
 「もちろん、その方がいいですよ」
 「それじゃあ、新媒体の骨格はゴールデンウィーク前に固めないとな。とにかく、君たちの案は4月半ばにはないと困るぞ。あと1カ月以上あるからできるだろう。どうだ?」

 北川と小山は顔を見合わせたが、小山が「どうぞ」と言わんばかりに掌を上に差し出すと、「仕方ないな」という顔つきの北川が徐に答えた。

 「4月半ばまでに必ず、たたき台を作るようにします」
 「じゃ、頼んだぞ。さあ、今日は楽しく飲むことにするか。弁当だけで大した料理はないが、五段重ねだから、それなりのつまみにはなる。小山君、お湯割りを作ってくれ」

 指名された小山がお湯割りを4人分つくり、卓袱台に並べた。

 「村尾君も熱燗が良ければ、自分で手酌しろ」

 松野は徳利を取り、熱燗を独酌して「乾杯」と発して杯を上げた。そして、切り出した。

 「ところでな。酒を飲みながら、2人の身体検査をやるぞ。それでいいな、村尾君」

 松野に同意を求められた村尾は含み笑いを浮かべたまま、何も答えなかった。