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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第30回

不倫スキャンダルは出世の必須条件? 大手新聞、堕落の始まりは10年前

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※イメージ画像 photo by
isamakin_289 from flickr

【前回までのあらすじ】--巨大新聞社・大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に、以前から合併の話を持ちかけていた。そして基本合意目前の段階にまで来たある日、割烹「美松」で、村尾、両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)、小山成雄(日亜)との密談が行われ、終了後、松野と村尾はそれぞれの愛人の元へ帰っていった。そして数日後、4人による第2回目の会談が行われた--。

「うちのほうの2つのSのことか」

 日亜新聞社長の村尾倫郎に催促された大都新聞社長の松野弥介は、隣に座っている部下の北川常夫を見て笑った。

「え、今度は僕の話ですか。それはいいじゃないですか。勘弁してくださいよ」

 北川は手を振りながら、泣き言を言った。

「小山(成雄)君だけやって、君を除外するわけにはいかないのは当たり前だろう」

 松野が対面の村尾と小山を交々見ると、小山が嬉しそうに頷き、同調した。

「そうです。僕だって、恥を忍んで、うちの村尾の説明を聞いていたんですから。やっぱり、北川さんのことも知っておく必要があります。僕らも、北川さんの女性問題のこと、よく知らないんです。知っているのは、うちの村尾以上に女にもてるということくらいです」

 北川は中肉中背だが、目鼻立ちが整った優男である。村尾の場合は、自分のほうから女にアプローチして落とすタイプだが、北川は黙っていても女のほうから寄ってくるのだ。

「君、本当にそれしか知らないのか? 嘘をついちゃだめだ」

 胡乱顔の松野が小山を問い質した。

「いや誤解です。松野社長、信じてください。なにか、不倫相手が自殺してトラブルになったという昔話を漏れ聞いているだけです」

 小山が「降参しました」という調子で白状すると、松野は大きく頷いた。

「わかればいい。さて、本題だが、不倫相手の自殺事件のことを話す前に、うちの北川がどんな記者だったか、話しておこう。若い頃、うちの平山(久生・取締役社長室長)君と2人で1人前といわれていた話はしたな」

 松野は咳払いして、お猪口に熱燗を独酌した。

 北川が村尾と似ているのは女にもてる点だけではない。記事が書けない記者だった点も同様だった。村尾が1年先輩の常務論説委員長の青羽岳人にいつも記事を書いてもらっていたが、村尾にとっての青羽と同じ役割を担っていたのが北川の1年後輩の平山だった。

「それと別の話だ。小山君は業界紙に載った情報を盗用して大きな記事にでっちあげるのが得意だったらしいが、うちの北川は抜かれた時の対応が得意だった。そうだったな」

 世間では、今でも、新聞記者の世界はスクープを狙って記者たちがしのぎを削っているとみられているかもしれない。しかし、それは遠い昔日のことだ。