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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第77回

大新聞2社の社長不倫問題、暴露記事掲載の写真週刊誌を名誉毀損で提訴

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「Thinkstock」より
【前回までのあらすじ】
 業界最大手の大都新聞社の深井宣光は、特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞したが、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていたが、もう一人の首席研究員、吉須晃人とともに、新聞業界のドン・太郎丸嘉一から呼び出され、大都、日亜両新聞社の社長を追放する算段を打ち明けられる。東日本大震災から2カ月を経て、太郎丸は計画を実行に移したが、狙い通りには進まない状況にあった。


 “開かずの間”と陰口をたたかれている、「大都タワービル」最上階の25階の貴賓室で開いた大都、日亜両新聞社の名誉棄損訴訟に向けた打ち合わせは、大都側が社長の松野弥介、前社長の烏山凱忠(相談役)、編集局長の北川常夫、日亜側が社長の村尾倫郎、前社長の富島鉄哉(特別顧問)、編集局長の小山成雄の各三人が向かい合って昼食を取りながら、話し合った。

 食事を始める前、想定外に前社長の烏山が持ち出し、瓢箪から駒のような結論になった経営統合を巡る話題とはうって変り、訴訟戦略のすり合わせは大きな議論もなく淡々と進んだ。北川と小山の二人で事前にすり合せをしていて、おおよその方向が固まっていたこともあるが、六人ともスキャンダル塗れであまり人のことをとやかく言える立場になかったのが大きかった。

 最大の問題は、原告をどうするか、という点だった。大都は会社として訴えるだけで、“恐妻家”の松野個人は訴訟に加わらない方針だった。不倫相手の社長室社員、花井香也子の方も寝た子を起こすような行動に出る気が毛頭なかった。長年、不倫関係を続けていたが、お互いに“火遊び”という認識で、会社で訴えて勝訴すれば、それで十分だった。

 対する日亜は違っていた。社長の村尾は火に油を注ぎかねない個人での訴訟にためらいがあった。できれば、大都に歩調を合わせたいというのが本音だった。しかし、不倫相手の女性記者、芳岡由利菜がそれを許さなかった。上昇志向の強い由利菜は自分個人で訴訟を起こすと言って、村尾の説得にも聞く耳を持たなかったのだ。個人でも訴えて、勝訴すれば、仮に今後、日亜の重要ポストに起用されても情実ではない、というお墨付きをもらったことになるからだ。

 松野と香也子の関係は“火遊び”に域を出なかったが、村尾と由利菜の関係はそれをはるかに超えたものだった。事実上、“同棲”していた時期もあり、村尾の妻も含めた関係には微妙なものがあり、一つ判断を間違うと、泥沼の騒動に発展する懸念があった。

 由利菜の意向を拒否すれば、どんな反撃に出られるか―。それを考えると、村尾は由利菜の言いなりになるほかなかった。そうであるのに、村尾個人が訴訟をしないと、おかしなことになる。

 日亜社内での検討で出した結論は会社と村尾個人が共同で訴訟を起こし、これとは別に、由利菜個人が勝手に個人で訴えるのを容認し、妥協することにしたのだ。そして、二つの訴訟が全く無関係であることを強調する意味もあり、訴訟代理人の弁護士も別々にし、提起の時期をずらすことにした。

 最後まで、由利菜の説得にてこずったのは、由利菜個人の訴訟を公表するかどうかだった。会社としての訴訟は当然、紙面に掲載するので、由利菜は同じ扱いにするように主張した。それ自体が新たな週刊誌ダネを提供することになりかねず、村尾は何としても避けたかった。結局、この点では由利菜が折れ、個人の訴訟は紙面には掲載せず、対外的に表沙汰にならないようにすることでも合意した。