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江川紹子の「事件ウオッチ」第45回

【鹿児島・強姦事件、逆転無罪】またも繰り返された冤罪 裁判所・捜査当局の「罪」

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「疑わしきは被告人の利益に」が刑事裁判の原則のはずだが……。(YouTube「ANNnewsCH」より)

 鹿児島市の繁華街で深夜、17歳の女性を強姦したとして、一審では懲役4年の実刑とされた男性Xさん(23)に1月12日、福岡高裁宮崎支部(岡田信裁判長)が逆転無罪の判決を下した。

 高裁が新たに行ったDNA型鑑定で、女性の体内から検出された精子はAさんとは別人のものと判明したのが決め手となったが、それ以前にも、強姦事件があったと見るには不自然な状況証拠がいくつもあった。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則に照らせば、本来は一審で無罪となっているべき事件だったのではないか。

無罪方向の証拠に目を向けない裁判所

 事件があったのは、2012年10月7日午前2時過ぎ。場所は「天文館」と呼ばれる、鹿児島随一の繁華街・歓楽街の大きな通りから入った路地である。女性の訴えで8日後に逮捕されたXさんは、「当夜は大量の酒を飲んでおり、酔っていて記憶がない」と一貫して説明したが、検察は証拠があるとして起訴した。

 一審は2人の弁護人がつき、公判前整理手続を経て、鹿児島地裁での審理が行われた。そこで、検察側証人となった鹿児島県警科捜研のA技官が、女性の体内から精子が検出されたが微量だったのでDNA型は特定できなかったとしたものの、女性の胸の付着物のDNA型はAさんと一致したと証言。女性も、Aさんから道路に押し倒されて頭を打ち、四つん這いの状態から仰向けにひっくり返され、馬乗りになられて首を絞められるなどした挙げ句に強姦されたという、激しい被害の状況を語った。

 一方、被告・弁護側は無罪を主張。女性の証言の不自然さを複数指摘し、信用性がないと主張した。たとえば、現場の前を通りかかったバイクを運転していた男性は、「男女が立ってイチャついていた」と証言しており、バイクが通り過ぎる灯りが監視カメラ映像に映っている。ところが、その45秒後には、女性が歩いている姿が、通りの別の監視カメラ映像に映っている。

 警察や検察での女性の調書では、このバイクが通り過ぎた後に暴行され、犯人と短い会話を交わしたことになっているが、わずか45秒では女性が証言したような行為はできない。また、女性はショートパンツ姿でアスファルト舗装の道路に押し倒されて激しい暴行を受けたというのに手足などにまったく傷がなく、衣服にもその痕跡がない。そして、女性のショートパンツからは、Xさんと別のDNA型の精子が検出されている。

 これに対し、同地裁(安永武央裁判長、植田類裁判官、竹中輝順裁判官)は、女性の体内から検出された精子が微量だったためにDNA型鑑定ができなかった、という検察側主張を「動かしがたい事実」とし、女性の供述についても「信用できる」と認定した。“45秒問題”は、女性が公判証言でバイクが通り過ぎた時期を「覚えていない」と述べたことをとらえ、調書が正確に書かれていないかもしれないと判断。女性の体や着衣に損傷がないことも、強姦が短かったことから「不自然とまではいえない」と弁護側の主張を退けた。ショートパンツに付着した精子に関しては、判決ではまったく言及もしていない。

 警察官と検察官がそろいもそろって、複数の調書でことの経緯を誤って記載したと判断するなら、それ相応の根拠が必要だろうが、判決はそれも示していない。検察側が有罪の主張を無批判に受け入れ、被害者供述の不自然さを指摘する弁護側の主張や消極証拠を、裁判官は想像を巡らし、さまざまな理由をつけて排斥している。このように有罪方向の証拠のみに注目し、無罪方向の証拠にまったく目を向けようとしないのは、裁判所が冤罪をつくるパターンである。

生かされなかった過去の過ち

 昨年大阪地裁で再審が行われ、10月に無罪となった強姦事件もそうだった。10代だった親族の女性に対する強姦と強制わいせつの罪に問われたYさんは、無実を主張したが懲役12年の実刑となった。Yさんの服役中に、女性が「実は、被害は虚偽だった」と告白。地検の再捜査で、女性が“事件”の後に医療機関を受診した際、医師が「被害を受けたことを示す痕跡がない」という見解を記載した診療記録も見つかった。そのため、検察も無罪主張に転じた。