黒田東彦・日本銀行総裁が就任から目指してきた金融政策による“インフレマインドの向上”という夢が終焉を迎えようとしている――。
日銀が自ら行っている「生活意識に関するアンケート」の3月調査結果が4月11日に発表され、1年後の物価が「上がる」との回答が減少、2013年3月調査以来の低水準に落ち込んだ。黒田総裁が就任後、まず最初に実施した金融政策「量的・質的金融緩和」は同年4月から始まったため、それ以前の水準に逆戻りしたことになる。つまり、「異次元緩和」「黒田バズーカ」などの異名をとった黒田総裁の金融緩和政策の結果は、“泡沫のごとく消え去った”といえる。
同アンケートは2月5日から3月3日の間に全国の20歳以上の個人に対して行われ、有効回答者数は2146人だった。1年後の物価が「上がる」との回答は75.7%(前回77.6%)に減少、さらに1年前の物価と比べて「上がった」は70.5%(同78.8%)とこちらも減少し、物価の上げ止まりを感じている人が多くなっている。
このアンケートは個人を対象にしたものだが、企業を対象とした日銀の「全国企業短期経済観測調査」、いわゆる「日銀短観」でも、企業の物価見通しは15年3月調査から16年3月調査まで物価の低下が続いている。今年1月29日に日銀は「マイナス金利政策」を決定したが、3月調査では1年後、3年後、5年後のいずれの物価見通しもマイナス金利政策導入前よりも低下している。
こうしたインフレに対する期待の剥落は、景況感に起因しているものと思われる。同アンケートでは、現在の景気水準について「良い」は9.0%(同12.7%)、「悪い」は50.5%(同44.2%)と圧倒的に景況感の悪化を感じている人が多くなっている。
これを景気が「良くなった」から「悪くなった」の回答を差し引いた景況感DIで見ると、1年前と比べた場合はマイナス22.5(同マイナス17.3)と悪化している。同様に1年後と現在を比べた場合はマイナス30.9(同マイナス19.9)と一段と景気が悪化すると見ている人が増加していることがわかる。
この景況感の悪化は、消費にも表れている。同アンケートによると、支出を1年前と比べると「増えた」は37.7%(前回42.3%)、「減った」は19.4%(同16.4%)と明らかに消費が減退している。1年後についても「減らす」は51.0%(同45.2%)と消費が一段と減退しそうな雰囲気をうかがわせる結果となっている。