「逃げる」脳…脳は重要な決断時ほど、感情と他人の言葉に左右されるようにできている
英国の国民投票が現地時間6月23日に実施され、その後のニュースやワイドショーは「英国、EU離脱」の話で持ち切りだった。そのなかで気になったのは、某コメンテーターが「理性ではなく、感情だけで投票する人が多かったのは残念だった」という意見を述べていたことだ。
そのコメンテーターはすでに60歳を超えているはずだが、その年になっても、まだ人間の本性を知らないのかと驚いた。
過去の歴史を振り返ってみればわかるように、戦争やジェノサイド(大量虐殺)、あるいはビジネスでいえば著名企業の経営破綻――、そういった出来事の原因を探れば、大きな判断ミスが見つかる。そして、そういった誤った判断をしたリーダーだけでなく、それに賛同した多数の人間は、理性ではなく感情に動かされて意思決定したことも明らかにされている。
英国の国民投票でも、残留派が離脱することへの経済的損失を論理的に訴えたのに対して、離脱派は外国(移民、グローバル化)やエリート層への大衆の怒りを燃え上がらせることによって勝利した。英国のジョン・メージャー元首相は「経済と感情の戦い」だったとコメントしている。
投票から一夜明けたら、離脱に投票したのが間違いだったと後悔する人たちが続出し、「もう一度国民投票をしてほしい」と請願する署名が数百万人に達しているという。これに関しても、「一時的には感情に駆られて離脱を選択したが、後で理性が戻ってきたのだろう」と解釈されているようだ。
1990年代に急速に発展した神経科学により、人間が意思決定するためには感情と理性(論理的思考)の協働が必要であり、多くの場合、感情が理性より優位に立つことは科学の世界では常識となっている。この数年の米経営学誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」の記事をみても、リーダーの意思決定の問題になると、必ずといっていいほど神経科学の知見が紹介されるようになっている。
恐怖は人間の行動を大きく左右する
得てして、人間は論理的思考に基づく理性だけで意思決定できる、感情に影響されて判断しないように意識的努力をすることができるなどと思っているから、リーダー(政治家、経営者)は大きな間違いを犯すのだ。
非常に皮肉なことではあるが、理性が働くのは安定した社会(時代)の中であり、本来なら一番理性をもって考えなくてはいけない社会では、感情が意思決定の中心になる。なぜなら、もともと感情というのは、人間を含めた動物が生きるか死ぬかの非常時に素早く行動がとれるように生まれたものだからだ。