回転寿司店で、「寿司飯(しゃり)は人肌より温かいのが本当の寿司だよ」と友人に説明すると、驚きながら「今まで、温かいごはんの寿司は食べたことがない」と答えました。
その友人は、炊き立てのごはんに酢を混ぜて、団扇で扇ぎながら冷ましているので、しゃりは冷たいのが本当だと思っていたと言いました。
酢飯のつくり方を料理本などで見ると、団扇で扇いで一気に冷ますように書いてあるので、完全に冷やすのが正しいと思ってしまうのでしょう。しかも、細菌の増殖を考えると、炊きあがりの60度以上ある温度帯から、細菌の増殖スピードが落ちる20度以下になるまで30分以内に落とすことが大切なので、しゃりも20度以下のほうが安全だと思ってしまうのかもしれません。
ところが、回転寿司で回転している寿司や、お土産の寿司など、握ってから食べるまで時間がある場合は、保存性のためにしゃりの温度はもっともおいしい温度よりも下げる必要があります。
寿司店のしゃりも、酢を混ぜた後、寿司を握る時まで人肌程度の温度で保温しておきます。それも、酢飯の温度が下がらないように、なるべく小さなお櫃を使用します。ごはんを炊いてから人肌よりも温度が下がらない数時間以内に握るのが、おいしい寿司の最低条件だと思います。
回転寿司でも、温かい酢飯の状態で寿司が出てくると、おいしいものです。しかし、売り上げが下がってしまったある回転寿司チェーンは、作業性を優先し、1日1回しかごはんを炊いていなかったとの情報もあります。
最低でも、昼のピーク、夕方のピークに合わせて炊飯していれば、お客が離れていくことを最小限にとどめられたのではないかと思います。
温かくおいしい酢飯が、口に入れた瞬間にほぐれ、ネタと口の中で混じり合うことで寿司のおいしさを感じることができます。寿司店のカウンターで、1個ずつ板前さんが握ってゲタに置いてくれて、それをすぐに食べるのが、もっとも寿司を堪能できる方法です。
最近、柔らかく煮た穴子を軽くあぶって、柔らかく握ったしゃりの上に載せて、お客の左手の手のひらに直接置いてくれるという凝ったサービスをする店もあります。ゲタの上に置いたのでは崩れてしまう柔らかさなのです。
それが、茶碗に盛ったごはんの上に穴子を置いた場合よりはるかにおいしく感じるのは、職人の腕のおかげだといえるでしょう。