アメリカのドナルド・トランプ政権が、北朝鮮に対する圧力を最大限に高めている。
まずは「テロ支援国家」の再指定だ。北朝鮮は1988年にテロ支援国家に指定された後、2008年に解除されており、約9年ぶりに再び指定されたことになる。
言うまでもなく、これは北朝鮮が進める核・ミサイル開発に圧力をかけることが最大の目的だ。また、このタイミングでの再指定は、中国に対する不満の表れと見ることもできる。トランプ政権は、再指定する法案をすでに4月に下院で可決していた。その後、米朝間で挑発合戦が繰り広げられ、いつ再指定に踏み切るかが注目されていたが、ひとつの分水嶺となったのが中国の特使派遣だ。
中国は11月17日から4日間、中国共産党の中央対外連絡部長・宋涛氏を習近平国家主席の特使として北朝鮮に派遣した。しかし、金正恩朝鮮労働党委員長との会談は実現しなかったもようで、核・ミサイル開発をめぐる具体的な成果は皆無であった。アメリカは、これを「中国の説得工作は失敗に終わった」ととらえて、すぐに再指定を発表した。
テロ支援国家に指定されると、「武器輸出・販売の禁止」「軍事・民生の両方に使える製品の輸出管理」「経済援助の禁止」「金融取引の制限」などの制裁が科される。
また、指定国および国民と取引を行った場合は、「米国自由法」によってアメリカとの取引が禁止されることになる。「アメリカと取引できない=ドル決済ができない」ことを意味するため、これは、どの国も絶対に避けたい事態だ。そのため、テロ支援国家の再指定は、国際連合安全保障理事会の制裁決議と同様に世界に大きなインパクトを与えるものである。
また、アメリカは翌日に北朝鮮に対する追加制裁として、中国の企業や個人を含む14の団体・個人、船舶20隻を金融制裁の対象に指定した。そして、「これは始まりにすぎない」とした。これも、トランプ大統領の言う「最大限の圧力」の一環であるが、裏返せば中国を追い詰める姿勢の表れといえる。
アメリカは、さらに「段階的に北朝鮮に対する圧力を拡大させていく」としている。もはや、残されたカードは「国連安保理による完全な禁輸などの金融封鎖」あるいは「軍事的制裁」という2枚ぐらいだろう。
アメリカによるテロ支援国家再指定や追加制裁は、それらの前段階といえる。いわば、世界は「アメリカと北朝鮮のどちらを選ぶか」を突きつけられているといえるが、世界の基軸通貨たるドルを支配するアメリカを選んだほうが得策であることは明らかだ。中国ですら、「北朝鮮を積極的に支持する」という選択肢は採れないのが現実であり、図らずもドルをバックにするアメリカの強みが浮き彫りになっているといえる。
北朝鮮、経済制裁で深刻な食料&燃料不足に?
そんななか、中国国際航空(エア・チャイナ)が北京と平壌を結ぶ便の運航を無期限で停止した。理由は「需要が低迷した」とのことだが、これによって北朝鮮の民間航空便は高麗航空の「Tu-204」(ツポレフ204)2機のみ、北京、瀋陽、ウラジオストク行きの定期便のみとなった。北朝鮮にとって外国人の観光は外貨獲得の貴重な手段だが、エア・チャイナの運航停止によって中国経由の観光客が激減することは必至だ。
『日中開戦2018 朝鮮半島の先にある危機』 今後の安倍政権の課題だが、まずは北朝鮮の問題、そしてその後には安全保障上の問題として中国の問題がある。中国では、10月の共産党全国大会で、習近平体制がますます磐石なものとなった。そして先祖返り的に「新時代の中国の特色ある社会主義」が推し進められようとしている。今後は、政治的にも経済的にも中国との間にますます軋轢が増えるだろう。そういう意味では、すでに日中間の戦争が始まっているともいえる。 世界各国でも、ナショナリズムを掲げる政党が躍進しており、まさに冷戦時代へ巻き戻った。このような世界の大きな流れを踏まえた上で、あらゆる角度から日本と中国の現状を分析することで、戦争の可能性について探っている。