昨年までの北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の強硬な態度が年明けとともに豹変し、1月1日の年頭演説で南北対話に前向きな姿勢をみせた。まるで示し合わせていたように、文在寅韓国大統領も翌日の2日、南北高位級会談を提案、9日にも会談が実現し南北融和ムードが満開だ。一方、トランプ米大統領も南北対話翌日の10日に米メディアに対して、金氏とは「非常に良い関係」「南北対話中はいかなる軍事行動もない」と言明するなど、これまでの「ロケットマン」「精神異常者」といった金氏への批判を撤回した。
米韓のあまりの変わり身の早さに驚きを隠せないのが、安倍晋三首相ら日本政府要人であり、菅義偉官房長官は「日米、日米韓の(北朝鮮への)対応策になんら変更はない」と述べて、日本政府の対北強硬路線は米国も支持していると強調するものの、在京外交筋は「安倍政権が米韓からはしごを外された感じだ」と指摘する。同筋は「かりに米韓の対北融和姿勢が継続するようならば、拉致被害者奪還のための安倍首相のサプライズ訪朝も考えられる」との見方を明らかにしている。
完全な出来レース
金氏は元日の「年頭の辞」で「核のボタンは私の机の上にいつも置かれている」などと語り、核兵器の開発はほぼ成功し、最終段階にあると宣言する一方で、「北南関係を改善し、北南間の鋭い軍事衝突と戦争危険を解消するための積極的な対策を立てなければなりません」などと語り、北朝鮮の平昌五輪への参加と韓国との対話に強い意欲を見せた。
金氏は昨年、核兵器開発と弾頭ミサイル発射実験を繰り返し、6度目の核実験を実施し、南北対話の可能性すら全面的に否定していただけに、まさにその豹変ぶりは周囲を驚かせた。この裏には、米国主導の国連安保理による厳しい対北制裁により、北朝鮮経済が極めて逼迫しており、対話による融和ムードを高めることで、制裁緩和を図るとの思惑が働いているのは明らかだ。
しかし、これを受けて、文氏は南北高位級会談を提案したことで、一気に南北融和の雰囲気は高まり、3日には韓国と北朝鮮間の「南北連絡チャンネル」が2年ぶりに再開。4日には文氏がトランプ氏と電話会談し米韓合同軍事演習の延期で合意。翌日には韓国と北朝鮮が9日に南北閣僚級会談の開催で一致するという極めて早い展開をみせた。これについて、トランプ氏はツィッターに「もし、私が断固とした強い姿勢で全力で北朝鮮問題に対処していなければ、まさに今、北朝鮮と韓国の間で対話が行われようとしていることを誰が信じただろうか」と書き込み、金氏の態度を変えさせたのは自分だとばかりに自画自賛したのだった。