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貧困ヤクザ、社会問題化…スーパーで万引き、日本各地でナマコ密漁、幼なじみ恐喝

文=編集部
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貧困ヤクザ、社会問題化…スーパーで万引き、日本各地でナマコ密漁、幼なじみ恐喝の画像1作家の宮崎学さん

 暴力団の排除が進むなか、正業に就けなくなったヤクザたちが生活の困窮ゆえに今までとは異なった犯罪に走っているという。

 NHKの報道番組『クローズアップ現代+』などは彼らを「貧困暴力団」と呼び、「なんでもアリの危険な集団」と評している。今、ヤクザ社会で何が起きているのか。アウトローに詳しい作家の宮崎学さんに聞いた。

末端のヤクザも潤っていたのはバブル期まで

「組の運転資金が乏しく、金が必要だった」

 昨年6月、窃盗罪で起訴された神戸山口組傘下組織の組長の子分は、警察にこう明かした(2017年7月11日付朝日新聞電子版)。報道によると、この組長は組の資金不足を補うために、子分に指示してスーパーマーケットで米やスイカなどの食品や日用品を盗んでいた。

 この事件は「ヤクザが万引きするほど困窮している」と話題になったが、ここ数年は「キセル乗車」や生活保護の不正受給など、「ヤクザらしくない」事件も相次いでいる。

 同日付の朝日新聞では、幼なじみに「後援会費名目」で食肉を高値で買わせようとした組員の恐喝未遂事件も合わせて報じられている。

「今どきのヤクザの生活が苦しいのは事実でしょう。銀行口座も持てず、建設業やサービス業など、これまで就けていた仕事からも締め出されているのですから。でも、そもそも裕福なヤクザというのは、それほど多くはないのです」

 宮崎さんはこう説明する。

「そもそも、ヤクザという生き方に定義はありません。(ヤクザの源流とされる)江戸時代の幡随院長兵衛のような町奴(まちやっこ)から、ヤクザ映画のヤクザ、山口組初代組長・山口春吉のような港湾荷役労働者の親分、そして経済ヤクザまで、『ヤクザ』とは呼ばれていても、そのあり方はさまざまです。共通点があるとすれば『任俠』ということになりますが、今は食っていくために『任俠』もないがしろにされているのが実情だと思います。もはや、カッコつけてはいられないのでしょう」(宮崎さん)

「任俠」とは、「弱い者を助け、強い者をくじき、義のためには命を惜しまないという気風。おとこぎ。おとこだて」と定義される(電子版三省堂 大辞林)。

「街の治安を守るのは、地元のヤクザの務めでした。もっとも、誰かに優しくしたいというよりは自分と組織の利権を守るためですが、それでも結果として街を安定させていて、頼られる存在だったのです。だから、顔役の親分衆にはそれなりにカネも入ってきていたでしょうが、そうでない者たちは決して裕福ではありませんでした」(同)

 ヤクザというのは、世間の印象ほどリッチではないようだ。

「末端までカネが回っていたのは、1980年代の不動産バブルの前後の時期ですね。当時は、20代の組員でも財布に100万円くらいは入っていました。でも、逆にいえばその頃だけです。ほかの時代は、大半のヤクザはカネがなかったですね」(同)

 宮崎さんによれば、そうした事情はヤクザ映画からも見て取れるという。

「たとえば、高倉健さんは着流し姿で、菅原文太さんはポロシャツにスラックス程度です。あるいは、渥美清さん演じる寅さんはダボシャツに腹巻き。いずれも、それほどカネがあるようには見えません。それが普通でした。大金を動かせる経済ヤクザは、それほど多くはないのです」(同)

 それでも、バブル期前後には経済ヤクザたちがメディアをにぎわせ、彼らの金満ぶりは世間に印象づけられていた。

ロレックスとベンツのヤクザはバブル期の幻影

 バブル期には、宮崎さん自身も「地上げ屋」として都市銀行から億単位のカネを預かり、地上げに奔走した経験がある。

「あの頃の銀行はいくらでもカネを出して、私たちはそれを使ってゲームのように地上げをしていました。でも、心の中では『こんな異常なことは長くは続かないだろう』と予想していました。実際、そうなりましたしね」(同)

 そう予想できたのは、子どもの頃からヤクザたちを見てきたからだという。

「ヤクザだった父は解体業を営んでいて、ビジネスは成功していたほうでしたが、それでも浮き沈みはありました。土地や株で儲けるヤクザなんか少数でしたから」(同)

 バブル期に儲けたことで、ヤクザたちの意識も変わったということか。

「そうですね。映画『仁義なき戦い』(広島死闘篇)では、自分は『うまいものを食っていい女を抱く』ために生まれてきた、つまり『ヤクザをやっているのだ』と千葉真一さんに言わせていますね。その程度が“幸せ”だったのですが、バブルはヤクザたちの金銭感覚をも変えてしまったんです。黒いスーツにロレックスをつけてベンツをころがすようなヤクザはバブル期の幻影にすぎなかったのに、それがスタンダードになってしまいました」(同)

 確かにバブル期は「ヤクザ=リッチ」だったようだが、いわばそのときの“幻想”から抜け出せないヤクザも多かったということだろうか。

「貧困ヤクザの三大シノギ」とは

 宮崎氏によれば、最近の非合法シノギも決して新しい問題ではないという。

「今どきの『貧困ヤクザの三大シノギ』とされている違法薬物、詐欺、密漁は昔から行われてきたことです。カネのある親分衆は、こうしたシノギを『任俠にもとる行為』として禁じてきましたが、食えない若い衆がやるのは当たり前ですね。ただし、危険ドラッグの製造技術をはじめ、スマホなど電子機器の進化もあって内容的には変わっています。それに、昔のヤクザはすぐに殺したりして、荒っぽかった。今は、ヤクザによる殺人はほとんど起こっていないですね」(同)

 警察庁の「警察白書」などによれば、殺人事件は1954年の3081件をピークに減少を続けており、全国の警察が2017年の1年間に認知した殺人事件(未遂を含む)は過去最少だった16年より25件多い920件と報告されている。

「13年の殺人事件が938件となって、初めて1000件を下回ったときは話題になりましたね。その後も、多少の変動はあってもほぼ1000件以下で推移しています。そして、事件の大半は親族間によるものです。ヤクザは人を殺すにも自分の刑などを計算しますから、重罰化している今は簡単にはやらないし、やったとしても自首しません。検挙率が下がっているのも、ヤクザが捜査に協力しないからだと考えます」(同)

 殺人などの凶悪事件は減る一方で、薬物など非合法のシノギが増えたということだろうか。

「そういうことになりますね。乾燥大麻などはネットで製造法を調べることもできますし、オレオレ詐欺も以前から半グレや素人と手を組んでいます。とはいえ、密漁は簡単ではないでしょう」(同)

 密漁はダイビング用品やボートが必需品であり、安くない初期投資が必要だ。

「ボートは逃亡しやすくするためにモーターを増やし、ドライスーツなどのダイビング用品も調達します。ただ道具をそろえたところで、場所や潮の流れなどを知らないと危険です。それに、すでにヤクザがたくさん入ってきているので、新規参入は難しいと聞いています」(同)

 ナマコなどの密猟者摘発の報道は以前より目にするようになってきてはいるが、宮崎さんによれば、それは「氷山の一角」だ。

「天候が悪いとき以外は、北海道だけでなく国内各地の沿岸部に船を出しているようですから、把握しきれないでしょう。ナマコだけでなく、ウニやカニ、アワビ、サケなどが獲られています。この背景には、漁業法は覚せい剤取締法などと比べて罰則がゆるいこともあります。密漁は懲役3年以下または200万円以下の罰金ですから、逮捕されてもまたやりますよ。リスクは、ダイバーがたまに溺死することくらいです。監視船が来たら、そのまま置いていくそうです」(同)

 置き去りにされるのは怖いが、覚せい剤取締法違反の最高刑は無期懲役なので、よりローリスクといえる。

「私は京都の出身なので、伊勢などでアワビなどを密漁していた不良も知っています。『覚せい剤よりはマシ』という判断でしょうね。ただし、昔はみんな小規模でした。今のナマコの密漁は、山中につくった秘密工場で乾燥させて中国に高値で売ると聞いています。ボートの調達から加工工場の建設までできるということは、大組織による大規模なシノギということになります」(同)

 そうした密漁は地元の漁協にとっては大打撃であり、「任俠とはほど遠い」と批判されても仕方ないのではないか。

「私も、こうした非合法のシノギの拡大を称賛はしません。しかし、金融機関の口座を持てず、生命保険や携帯電話すら契約できないのが今のヤクザです。生活のために非合法の手段を取っているだけでしょう」(同)

 ヤクザたちは、生きるための「仁義なき戦い」を始めたのだ。後編では、ヤクザたちを苦しめる暴力団排除条例や新しいタイプの犯罪について、さらに宮崎さんの話をお伝えする。
(文=編集部)

●宮崎学(みやざき・まなぶ)
1945年京都生まれ。ヤクザや国家権力に関する著書が多く、独自の視点は定評がある。『週刊実話ザ・タブー』と『月刊日本』で時評も連載中。

BusinessJournal編集部

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