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「相馬勝の国際情勢インテリジェンス」

中国、コロナ拡大で北京五輪に暗雲…西安市、予告なしの都市封鎖で世界経済を寸断

取材・文=相馬勝/ジャーナリスト
中国・西安
中国・西安(「gettyimages」より)

 中国西部における最大の工場設備製造拠点である陝西省西安市は23日午前零時(日本時間同1時)、新型コロナウイルスの感染拡大により、約1300万人の市民は居住地からの移動が禁止となり、市全域が完全に封鎖されるという事態が現実のものとなった。市民はロックアウト(都市封鎖)を直前まで知らされず、ようやく前日の夕方になって事実を知った人々は競うようにして買い物に走り、売り場からは食料品が消えた。ある市民は「まるで刑務所にいるようで、気が狂いそうだ」とSNSで鬱憤をぶつけた。

 中国の習近平指導部は市政府の対応の遅れにいら立ちを強めており、責任者を処罰するなど対応に追われているが、今後ロックダウンが長引けば、航空宇宙、自動車、および電子産業が集中している西安市に進出している外資企業はほとんどが操業停止を余儀なくされることが予想される。国際的なサプライチェーンにも影響を与えることは必至で、中国経済全体にも影響を与えるばかりか、2月の北京冬季五輪にも影を差すことになるなど、国際的な影響の軽視できないだけに、対応に苦慮している。

武漢の閉鎖以来、最大規模の発生防止対策

 西安市では12月9日に初めて現地で患者が確認された後、22日に感染者が急増、3日連続で1日の患者は2桁となり、この時点での累積患者数は235人となった。さらに、25日に陝西省で新たに確認された患者は157人(うち西安では155人、咸陽で2人)と急激に増加している。

 西安市疫病予防管理総隊は22日午後4時から、市内の交通を厳しく管理し、特に理由のない外出や他地域からの車両や人が市内に入ることを禁止。23日午前0時から市内の企業や学校などの公的施設はすべて「閉鎖状態」に入った。これは昨年の湖南省武漢の閉鎖以来、最大規模の発生防止対策となった。

 米政府系報道機関「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」によると、西安市全域閉鎖のニュースが流れるや否や、多くの住民は大慌てでスーパーに食料を買いに行き、中国版ツイッター短文投稿サイト・微博(ウェイボー)や百度(バイドゥ)に転載された動画では、食料品の売り場の棚に上がって食料を奪い取っている姿が映し出された。

 ウェイボーでは「高速鉄道の駅が閉鎖され、誰も入れなくなった」「閉鎖2日目は学校から出られず、水も電気もなく、食べ物もない・腹ペコでネットで授業を受けるしかなかった」との投稿が見られ、「市街地閉鎖の初日に発狂しそうだ。まるで刑務所のようだ。何もない」とやるかたない憤懣をぶつける声も。

 また、西安当局の防疫対策が不十分であったことや、警告なしの準備不足のロックダウンだったために、「市政府の方針は朝令暮改で、日々変わる方針は大きな回転木馬のようで、どこを向いてもとにかく想定外だ」「『不可解』『奇抜』『ばかばかしい』というのは西安市行政の『3ばか言葉』だ」と揶揄する書き込みも見られた。

中国共産党も市政府の担当者を処分

 このような無計画なロックダウンについて、官製メディアである週刊誌「中国新聞週刊」までが『西安の流行を問う、人口1000万人の町が緊急時になぜこんなにひどい目に遭うのか』という特集記事を掲載。記事は西安市が流行の予防と制御に失敗し、混乱を招いたと批判している。

 同誌は、西安当局が感染経路を特定できず、地元の医療機関には臨時の集団検査に対応する十分な人員がなく、数百人の人々が寒さのなかで何時間も行列に並ばなければならなかったと非難している。また、PCR検査システムがダウンして採取したサンプルがすべて無効となり、再検査を求める通知を送らなければならなかった。これを受け取った市民は絶望的な思いにかられ、市政府に怒鳴り込んだケースさえあったという。

 西安市の伝染病の予防と管理が不十分であることを公式メディアが批判したことを受け、中国共産党規律検査委員会や国家監察委員会は市政府の担当者、計26人を処分する通知を発している。今後、事態が悪化すれば、陝西省や西安市政府幹部も処分されることが予想される。

サプライチェーンに危機

 このような西安市民の窮状に加え、西安市は中国の半導体、自動車、設備製造、新エネルギー産業の主要都市であることから、「このまま感染拡大が続けば、チップ産業や自動車産業のサプライチェーンに危機が訪れる」と市場は懸念している。

 陝西省の工作機械関連産業の規模は国内第3位。陝西省最大の都市、西安市の2020年のGDPは初めて約1兆元(18兆円)を超えているが、今回のロックダウンで多くの企業が操業停止状態に入っていることから、今後の経済的な影響が懸念されている。VOAによると、精密機械加工を手掛ける時碩(グローバルテック)傘下の時碩工業は23日、中国の西安工場の操業を同日から停止、130人の従業員は自宅待機状態だ。工場は現在、コロナの集団感染発生に対処しているが、近い将来に集団発生を抑制できない場合は数千キロ離れた江蘇省の無錫工場に生産拠点を移す可能性があるという。

 一方、韓国の三星電子の海外工場でフラッシュメモリチップを生産しているのは西安工場だけで、その投資額は250億ドル以上。三星は「今回のロックダウンは工場の操業に当分の間影響を与えない」としているが、今後ロックダウンが長引けば、従業員の出勤にも影響が出ることも予想される。

 また、中国の民間自動車メーカーであるBYDも、西安に乗用車、商用車、鉄道輸送のフル産業チェーンを有していることから「閉鎖による生産への影響があるのは間違いなく、今後は積極的に対応策を調整する」としている。

 西安国家ハイテク産業開発ゾーンは同市最大の経済増長の対外開放の窓口の一つだが、外資系企業のなかでは日系企業の進出は比較的早く、いまでは日系企業は50社以上進出しており、その投資は先端的製造業、ソフトウェア開発のようなハイテク産業分野に及んでおり、来年以降、その影響は無視できないとみられる。

 また、西安での感染は、北京、陝西省襄陽、延安、広東省東莞、河南省周口など5都市に広がっていることが確認されており、西安を起点に再び中国全土への感染拡大となれば、2月の北京冬季五輪への影響は不可避だ。

(取材・文=相馬勝/ジャーナリスト)

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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