
2017年4月からの消費税率10%への引き上げに関する観測が喧しい。
今年7月の参議院選挙や今月26、27日の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)と絡めた観測が出ているが、過去の安倍晋三首相の政策を振り返れば、消費税率引き上げの再延期は既定路線といえるだろう。
安倍首相はこれまで、経済財政政策を打ち出すことでその人気を回復し、その後に自らの夢である政治課題(安全保障問題・憲法改正)に向かって突き進むという手法を繰り返している。政治課題をクリアすると再び経済財政政策を打ち、再び政治課題に取り組むその戦略は明確だ。
12年12月26日に安倍政権が誕生し、デフレ経済を克服するため「大胆な金融緩和措置」「機動的な財政出動」「民間投資を喚起する成長戦略」の「三本の矢」と称した一連の対策を打ち出す。マスコミはこれを「アベノミクス」と呼んだ。
年が明け13年3月20日、盟友・黒田東彦氏が日本銀行総裁に就任。待ちに待った3本の矢の要となる大胆な金融緩和措置を実行に移せる日銀総裁が誕生した。安倍首相と黒田総裁が描く「デフレを脱却し、経済成長したインフレの世界」というバラ色の夢に人々は大きな期待を抱いた。
同年4月、黒田総裁は大胆な金融緩和措置に打って出る。のちに「黒田バズーカ」と呼ばれる量的・質的金融緩和を決定し、2%の物価目標を2年程度で実現することを宣言する。
この効果は絶大だった。世の中では黒田総裁の狙った「インフレマインドの醸成」が着実に進んだ。ここからしばらくの間、円安・株高の効果から日本はあたかも景気回復が急速に進んでいるかのような錯覚に陥った。
政治課題から経済政策への舵切り
だが、同年12月6日、安倍首相の政治目標のひとつでもある特定機密保護法が成立すると安倍内閣の人気は急速に低下する。加えて14年4月に消費税率が8%に引き上げられると、その影響は徐々に経済にも表れ始める。さらに7月1日、臨時閣議で憲法9条の解釈を変更し「集団的自衛権の容認」の方針を決定すると、安倍内閣の支持率は急速に低下する。
その上、消費税率8%への引き上げの影響により、黒田総裁の宣言した「2%の物価目標」は実現が困難になった。黒田総裁は巻き返しを狙い10月31日、量的・質的金融緩和の追加緩和、いわゆる黒田バズーカ2を決定する。