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孫崎享「世界と日本の正体」

北朝鮮のICBM発射、米国は脅威とみなさず、逆に利益…軍事力増強や対中国圧力に利用

文=孫崎享/評論家、元外務省国際情報局長
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軍事緊張を望む層

 では今日、米国、韓国はどのような対応をしているか。2016年から、米韓軍事演習は量・質を向上させ、北朝鮮の核・ミサイル基地への攻撃に加え、首都・平壌の攻略と金正恩委員長ら最高司令部の除去に向けた、上陸作戦も含む全面戦争をも想定した攻撃的な訓練が実施されている。つまり、「無条件降伏を求めないことを明らかにし、どんな紛争も国家の生存の問題を含まない枠をつくることが米国外交の仕事である」と述べるキッシンジャーの戦略と、まったく逆のことを行っている。

 なぜか。まず第一に、米国は北朝鮮のミサイル開発、核兵器開発を真の脅威と考えていない。それはロシア・中国の核兵器、ミサイルにどのように対応するかを考えればいい。ロシア・中国の「真の脅威」に対しては、米国との核戦争を避ける安全保障の合意や協議が行われてきている。米国は北朝鮮のミサイルや核兵器が脅威であると認識すれば、いつでも破壊できる。米国にとって、北朝鮮のミサイル開発、核兵器開発は真の脅威ではない。

 では、北朝鮮のミサイル開発、核兵器開発が進み、脅威らしいものができることに、米国はいかなる利益を見いだしているか。

(1)米国が軍事力を増強することを正当化できる
(2)日本の防衛費増大に圧力をかけられる。そして日本が増強する兵器の大部分は米国から購入することとなる
(3)韓国経済はその貿易構造からして中国依存度を高めているが、北朝鮮の脅威が前面に出れば、中韓緊密化に歯止めがかけられる
(4)中国に対しても、「対北朝鮮政策が緩い」として圧力をかけられる

 トランプ米政権は18会計年度(17年10月~18年9月)の予算案で、国防費を1割近く増額要求する方針を明らかにし、国防費は総額6030億ドル(約68兆円)になる見込みである。本年、ロッキード、ボーイング、UT等の軍事企業はいずれも過去最高の株価を記録している。米国では、軍事緊張を望む層が国の中枢を占めていることを忘れてはならない。
(文=孫崎享/評論家、元外務省国際情報局長)

孫崎享/評論家、元外務省国際情報局長

孫崎享/評論家、元外務省国際情報局長

東京大学法学部在学中に外務公務員上級職甲種試験(外交官採用試験)に合格。1966年外務省入省。イギリス陸軍語学学校、ロンドン大学、モスクワ大学にてロシア語を習得し、在ソビエト連邦大使館を経て、1985年在アメリカ大使館参事官(ハーバード大学国際問題研究所研究員)、1986年在イラク大使館公使、1989年在カナダ大使館公使を歴任。1991年から1993年まで総合研究開発機構へ出向。駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使を歴任。国際情報局長時代は各国情報機関と積極的に交流。2002年より防衛大学校教授。この間公共政策学科長、人文社会学群長を歴任。2009年3月退官。

Twitter:@magosaki_ukeru

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